「日本のプチ・ファーブル」と呼ばれ、自然の姿の観察を通して描く昆虫や植物のリアルな細密画で知られる熊田千佳慕(くまだ ちかぼ)。1911年に生まれ、戦前は商業デザイナーとして活躍しますが、戦後は児童向けの絵本を中心とした作画活動に転身しました。筆の穂先の数本の毛のみを使い昆虫の細かな毛を描き、植物の葉脈一本一本にいたるまで丁寧に表現する細密画は、対象を様々な角度から観察し「納得するまで描く」という信念のもと、一枚を描くのに何か月も費やしてきました。そうして生み出された膨大な作品群は、子どものみならず広い世代の人々を圧倒し、国内外で脚光を浴びています。

時に昆虫の捕食行動や枯れ果てる植物の姿をもリアルに描くことで食物連鎖の厳しさを表現するなど、自然界を徹底的に客観視しながら98歳で亡くなるまで絵筆を握って描き続けました。長年にわたって自然と向き合い続けた熊田は「自然は美しいから美しいのではなく、愛するから美しいのだ」という境地に達したといいます。

本展では、ライフワークとなった『ファーブル昆虫記』をはじめ、春夏秋冬の動植物の姿、ファンタジー作品、世界的な評価を受けている絵本の原画などの作品のほか、その創作の源とも言えるデッサンなどの資料を展示し,あらゆる命を愛した熊田千佳慕の世界を紹介します。