日本の近代美術に抽象絵画の領域を切り開いた重要な画家の一人、村井正誠(1905~1999)の生誕120年を機に、その画業を振り返る特別展を開催します。
村井は岐阜県に生まれ、医師だった父の仕事に従って彦根、和歌山、田辺に移り住み、1913(大正2)年からは新宮で育って、現在の和歌山県立新宮高等学校を卒業しました。その後上京して、新宮出身の西村伊作が創設した文化学院で3年間洋画を学び、フランスに渡って研究を続けます。パリで発表される最新の作品に接するとともに、ヨーロッパの各地を旅して古今の美術作品にも触れた村井は、普遍に通じる表現として抽象美術に関心をもち、1932(昭和7)年の帰国後も自らの制作について探求を重ね、幾何学的な構成の抽象絵画を発表して注目されます。その後も独自の抽象表現を展開し、色面と人の姿などを組み合わせたユニークで情感に満ちた作品を、1999(平成11)年に93歳で亡くなるまで旺盛に制作し続けました。
村井は画家としての歩みの初期から版画の制作にも取り組んでおり、それは生涯に亘って継続されました。版画における色彩と造形の試みは、油彩画における表現とも結び付いたもので、その双方をうかがうことで、村井の芸術への理解はより深まります。
本展覧会では、この多彩な版画作品にも重点をおいて展観し、画家であり版画家であった村井正誠の芸術をお伝えします。