【概要】
 山本豊子の作品は物語を内包しています。版画やインスタレーションによって表現される作品は、比較的現実的で心地よい表層とフォルムを持ちながら、どこか異質で此処ではない別世界に誘う窓口のようなものを連想させられます。現在進行している時間軸の同一線上にある過去や未来のようなものではなく、過去に想像されたであろう未来や太古の世界、もしくは同一空間に在りながらも認識することが極めて困難な気配のようなものを感じることができるかもしれません。
 「月庭を巡る燕石考」展に於いても虚と実の狭間を揺蕩いながら、作品の醸し出す異世界観を垣間見ることができることでしょう。ぜひこの機会にご高覧頂ければ幸いです。
--------------- フラットリバーギャラリー

【作家STATEMENT】
 今回は、ノルマンディー地方に伝わった燕石の伝説から作品を展開しています。
 かつて、燕は失明を回復する力のある石を浜辺でみつけることができると信じられていました。これを手に入れるため、村人は燕の雛を失明させます。すると親燕は海辺に石を探しに飛び立ち、石をくわえて巣にもどると雛の眼を手当てします。その後、絶対に見つからないところに不思議な力を持つ石を隠すと伝えられてきたのです。
 20年前東京のギャラリーで、そして2年前九州で、運搬された木箱から来場する「旅人」によって切り出された「石(鹸)」を陳列するインスタレーションを行いました。
 2025年東京・平河町では、巣の中で待つ燕の雛たちのイメージとともに、20年の時を越えて不思議な力を待つ「石」を展示しています。 会場では、親燕たちが口にくわえて運搬した「石」を、ツバキオイルとクロモジ水を原材料に「ツバクロ(燕)」石鹸としてプロダクト化して販売しています。肌の上で泡となって消えてしまう石鹸に眼を治す力はありませんが、親燕となって、燕の石をだれかに届けてみませんか?
--------------- 山本豊子