『白樺』は、武者小路実篤や志賀直哉ら学習院同窓を中心に1910(明治43)年から1923(大正12)年まで刊行された雑誌です。彼ら自身の小説や批評を発表する場であると同時に、西洋美術を紹介する新たなメディアとしての役割も担っていました。
 明治から大正にかけての日本は西洋から多様な文化や価値観・思想が流入し、印刷技術も飛躍的な発展を遂げた時代であり、多彩な雑誌が次々と生まれました。その中で『白樺』はレンブラント・ファン・レインやジョルジュ・ルオーといった西洋の画家や作品を図版や評論を通して紹介するだけでなく、彼らの芸術表現の背景にある精神性にも焦点を当てた点が大きな特徴と言えるでしょう。
 本展では、小説家でありながら美術へも強い関心を抱き自身も絵筆を取っていた実篤と、『白樺』の表紙を多く手掛けた岸田劉生にそれぞれ焦点を当て、近代日本における西洋美術受容の一側面を探ります。また、白樺派が主催した西洋美術の展覧会や同時期に生まれた美術雑誌、文芸雑誌なども併せてご紹介いたします。雑誌というメディアによって共有された理念や価値観の広がりを、作品および関連資料を通じて当時の空気とともに感じていただければ幸いです。