秋聲作品の映画化には、その生前に3作、没後に5作が数えられます。生前にはいずれも大正期に秋聲が集中的に執筆した大衆向けの小説、没後には、いわゆる秋聲の“代表作”と称される小説が多く選ばれているようです。
 人の声や音楽を好んだ秋聲のこと、無声映画の時代にはさほど心惹かれなかったと書き残していますが、昭和に入りトーキー(発声映画)が普及すると、カフェやダンスホールなどと同様、日常的な娯楽の対象としてしばしば映画館を訪れ、そしてその体験をもとに、小説の中にも都市文化の象徴として映画を描き込むようになります。また、久米正雄や岡栄一郎など映画界に接近した親しい作家たちの影響からか、松竹や日活の映画撮影所を見学に訪れたこともありました。
 この企画展では、映画化された秋聲作品および秋聲と映画にまつわるエピソードについてご紹介します。