人類の最も自然的な側面と考えられがちな「性」は、極めて文化的な性格を有している。むしろ、生物学的な「男/女」に限定されない性のあり方こそ、動物と人間とを截然と分かつものだ。そして人々は、性別の垣根を越境してみせることで、超越した異能を身に付けることさえできると信じられてきたのである。とりわけ、祭祀や芸能に関わる世界では、異性装をはじめとする「性別越境」が重要な意味を持つことがあった。
 そこで本展覧会においては、「あいまいな性」を許さなくなった明治以降の感覚を問い直しつつ、歴史的な「性」に対する意識を瞥見した上で、今日まで命脈を保ってきた日本文化における性の多様性について明確にしていきたい。