本展では、人工の光を絵にする試みとして、香月が長年に渡り取り組んでいるピクセルペインティング作品より「3600 Colors」シリーズを二十数点、そして2組のエディション作品を展示いたします。これらの作品を構成し、ギャラリーはまるでパソコンの画面が現実に現れたかのような空間となります。伝統的な絵画から現代のデジタルディスプレイへと続く「視覚とメディアの関係性」に迫り、私たち自身のものの見方に再考を促します。

香月恵介
1991年福岡県生まれ
2016年東京造形大学大学院 造形研究科美術専攻領域 修了

モニターに映し出された画像をその表示構造、赤青緑の画素を絵具で再現した「ピクセルペインティング(Pixel Painting)」を主軸に制作する。画像はモネやターナーの絵画を採用しているが、これは光を描いた著名な画家の作品を現代の光学技術の成果たるモニター(発光する画像)へ召喚し、その画像を絵画化することによって、現代におけるイメージや光についての再考を促すためである。そのほかにも、ピクセルペインティングにRGBライトを照射した「Lux」シリーズ、偶発的に混ざり合った色材的灰色とランダム生成された仮想物としての光学的灰色が混成された画面を作り出す抽象絵画「Gray」シリーズを手掛けるなど、現代の光と絵画の関係性を考察している。

■受賞
群馬青年ビエンナーレ優秀賞(2021)、第32回ホルベイン・スカラシップ奨学生(2017)、東京造形大学ZOKEI賞(2016, 2014)、リキテックスアートプライズ グランプリ(2014)
https://www.keisukekatsuki.com/

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香月恵介の制作は、イメージが「どのように表示されているか」という問いから出発しています。デジタルディスプレイに映し出される画像は、私たちにとってあまりにも日常的な存在であり、その構造や成り立ちを意識する機会はほとんどありません。しかし香月は、その背後にある表示システムそのものに目を向け、絵画というメディアを用いてそれを可視化してきました。

本展に登場する「3600 Colors」シリーズは、その代表的な試みです。本シリーズは、縦横60列、計3600のピクセルによって構成され、インターネット上に無数に存在するイメージの網羅性をひとつの前提として成立しています。作品サイズが正方形に統一されている点も、画像が均質に並び、一覧として把握される環境、すなわちインターネット的な表示形式を強く想起させます。

画面サイズやピクセル数をあらかじめ規定することで、描かれるイメージは、主題や物語性よりも先に「表示形式」として同じ地平に置かれます。このフォーマットのもとでは、美術史的な絵画作品を参照したイメージも、インターネット上に遍在する画像の一部も、あるいは特定の参照先を持たない抽象的なイメージも、すべてが同一の条件で扱われます。

香月は、作品が空間においてグリッド状に配置されることを想定して制作を行ってきました。各作品は独立した一枚として成立しながらも、同一フォーマットの画面が壁面に並ぶことで、インターネット上の画像一覧やブラウザ画面が、現実の空間にそのまま立ち現れたかのような視覚体験を生み出します。ここで問われているのは、イメージの内容以上に、私たちがそれをどのような条件のもとで見ているのかという「見る状況」そのものです。

19世紀、ウィリアム・ターナーは、産業革命によって蒸気機関や鉄道が登場し、速度や移動体験が人間の視覚を大きく変化させた「見る状況」に、絵画で応答した画家でした。雨や霧、蒸気によって輪郭が不安定になる視界を描くことで、近代化によって変質した視覚体験そのものを画面に引き受けています。
続くクロード・モネもまた、写真技術の発展によって、対象を正確に再現する役割が絵画から切り離されていく時代に向き合いました。モネは、刻々と変化する光や大気の状態を連作として描くことで、外界の再現ではなく、その瞬間にどのように見えているかという視覚の印象そのものを絵画の主題へと転換しました。

香月の実践は、こうした系譜の延長線上に位置づけることができます。香月が向き合っているのは、ディスプレイという現代の支配的なメディアによって規定された「見る状況」です。高度に発達し、一般化した技術は、その仕組みが意識されなくなったとき、あたかも自然なものとして受け入れられます。本展で提示される作品群は、こうした実践を通して、私たちの視覚体験がどのような条件のもとで成り立っているのかを問いかけ、再考を促します。