100年の生涯を絵筆に捧げ、「命の画家」と称された日本画家・堀文子(1918-2019)。その創作の原動力となったのは、冒険家のような好奇心と、科学者のような探究心です。日々の感動を刻みつけた膨大な数のスケッチや、計算し尽くされた緻密な下図の数々に、その息吹を感じとることができます。
このたびの展覧会に際し、当館では一般財団法人堀文子記念館よりお預かりした資料の調査を実施しました。1万2千点にも及ぶ資料の中から、本画に加え、創作の過程で生み出された貴重な下図や写生帖を、かつてない規模で一挙公開します。画家が画業の「出発点」と語る女子美術専門学校(現・女子美術大学)時代の作品から晩年までの主要作品と、創造の「出発点」といえる小下図・素描などをあわせて展示します。本展は、単に完成された絵画を鑑賞するだけでなく、ひとりの画家がいかにして制作し、生命の息吹を絵画に宿していったのか、その驚くべきプロセスを解き明かす試みです。
堀文子は1918年、東京に生まれます。1936年から女子美術専門学校師範科日本画部で学び、若くして頭角を現します。創造美術(現・創画会)での活躍、上村松園賞の受賞など、新時代の旗手として注目を集めました。50歳を目前に大磯へ移住。その後も軽井沢、イタリア・トスカーナ地方にアトリエを持ち行き来。さらには80歳を超えてなお、幻の花ブルーポピーを求めてヒマラヤへと足を運ぶなど、新たな表現への挑戦を生涯貫きました。2011年には女子美術大学より名誉博士号を授与され、2019年に100歳で人生の幕を閉じました。
堀文子が晩年を過ごした大磯町には、堀が私財を投じて守り抜いた樹齢300年を超える「ホルトの木」があります。その木の苗木が2014年、本学相模原キャンパスに植樹されました。この木は、堀文子と女子美を繋ぐ生命の象徴であり、画家の「自然」と「生命」への深い敬意が、未来の学生たちへと脈々と受け継がれていることを物語っています。堀文子の志を宿し、大きく枝を広げた「ホルトの木」。この女子美で彼女の足跡を辿るとき、私たちは、尽きることのない人間的魅力と、孤高の筆致が切り拓いた独創的な世界を再発見するでしょう。