フォーカス
オークションからマイアミ・アートフェアまで──多彩な冬のアートシーンをピックアップ
梁瀬薫
2011年12月01日号
ニューヨークのアートシーンは、秋の華やかな若手作家によるシーズン・オープニングが落ち着きを見せ、11月から12月にかけては各地で次々とアートフェアが繰り広げられる。恒例のプリントフェアから始まり、マイアミでの数々のアートフェアには多くのニューヨークのギャラリストたちが参加する。展覧会のほうでは、美術館や大手画廊での充実した企画展が見所だ。また今年は東日本大震災のチャリティーオークションがさまざまなスタイルで数多く開催され、アートによって可能になるつなぐ役割を担った。
美術館展より:「マウリツィオ・カテラン:ALL」展
Maurizio Cattelan: All
2011年11月4日〜2012年1月22日まで
グッゲンハイム美術館
http://www.guggenheim.org/
1960年イタリア生まれ。最も刺激的で大胆不適、社会に物議を醸し出す、現代アート界の超異端児、カテランの大規模な個展が注目を集めている。展覧会タイトルである「オール=すべて」はこれ以外には考えられないほど、的確な言葉だ。サブタイトルも要らない。動物の剥製、楽器、家具、絵、木、人間(子どもから大司教、ヒットラー、などなど)、カテランが選ぶ「すべて」のモノがロープで縛られ、グッゲンハイム美術館のシンボルである天井から吊り下げられているのだ。あたかも大聖堂での絞首刑の儀式のようでもある。これらは1989年から制作されたという128点のオブジェ作品で、今展では巨大なモビールのインスタレーション作品となっているが、カテランの幼少期における苦境、自国の政治、社会、宗教への風刺と批判が皮肉たっぷりに表現されているのだ。吊るされているオブジェはどれもモノとしての機能を失い、ただ重力に身を任せ、静止しているが、空間は歓喜に満ちたような圧倒的なエネルギーを発しているのだ。「物質的な制作はこれが最後」だと、引退宣言をしたということだが、次の新しい活動が楽しみである。
美術館展より:「デ・クーニング」回顧展
de Kooning: A Retrospective
2011年9月18日〜2012年1月9日
ニューヨーク近代美術館
http://www.moma.org/
今回の回顧展ほどデ・クーニング芸術を包括している展覧会はないだろう。およそ200点にも及ぶ作品が、MoMAの6階全体を使って展示された。抽象絵画と大胆な構図のフィギュア・ペインティングで知られるデ・クーニングだが、1926年にアメリカに渡るまで、祖国オランダでアートを学び、デザイン会社に勤務していた。そこで習得したレタリングやトレーシングのデザインの技法が、後の作品に表現される有機的なフォルムの基礎となっているのは興味深い。今展では12歳のときに描いた静物画作品から、彫刻作品、亡くなる1997年の作品まで約70年間の功績を、7つの部屋に分類し作品の進化をその過程がわかりやすく展示された。歴史的な名作《ピンクの天使》(1945年頃)、《エクスカヴェイション(発掘)》(1950年)、そしてデ・クーニングの代表作として知られている《ウーマン》のシリーズ(1950〜1953)も含まれている。ポロックとは反対にデ・クーニングの作品は単に抽象表現主義絵画では表わせない、多様なスタイルと実験的な表現方法により制作された。コンセプチュアルで、深い内容を包括するのだ。