フォーカス
グローバリズムのなかのアメリカ現代美術のいま──出発はウォーホルから
梁瀬薫
2012年10月01日号
今年も9月第一週からニューヨーク市内・外の各美術館やギャラリー展が次々とオープンし、街はアートで華やいでいる。今年はベテラン作家の新作個展や、大統領選の年に多い、政治社会をテーマにした展覧会は影をひそめ、よりアメリカ人作家やアメリカを拠点とする作家たちによる日常や、アメリカ文化とアイデンティティーが明確にされるようなコンテントがはっきりした展覧会が特徴的だ。
このような傾向を象徴するのが、開幕と同時に注目を集めたメトロポリタン美術館の「Regarding Warhol: Sixty Artists Fifty Years」展と言えるだろう。タイトルどおりウォーホルの生んだアメリカン・ポップアートの50年間と、国際的に活躍するアーティスト60人により、世界に広がったウォーホル芸術とその影響を巡っていくというもの。ダウンタウンの画廊展でも今季はグループ展や多くの若手作家たちがアメリカポップ・カルチャーを提示していたのが印象的だ。現代社会がグローバル化し、文化も芸術もますます画一化する傾向にあるなか、日常そのものを芸術にしたウォーホリズムが浸透していた。
Regarding Warhol: Sixty Artists Fifty Years
The Metropolitan Museum of Art
2012年9月18日〜12月31日
60年代のニューヨークにポップアート旋風を巻き起こしたアンディー・ウォーホル。《緑色のコカコーラの瓶》(1962)、《キャンベル・スープ缶》(1965)など、日常の大衆的な大量生産品や、エルビス・プレスリー、マリリン・モンローといった国民アイドル像をモチーフにした作品を芸術として表わし、自身を「ウォーホル」として流通にのせ、イコンと化した革命家的なアーティストだ。今展では、キュレーターのマーク・ローゼンタールがウォーホルの芸術がこの50年間どのように世界のアートに影響を与えてきたかを探求するため、60人の著名作家の作品群とウォーホル作品を、主題ごとに分類して比較展示した。「日々のニュース:平凡なニュースから大惨事」では、ウォーホルの交通事故の写真をそのまま使用した《救急車大惨事》(1963-1964)とシグマー・ポルケの印刷物やバーバラ・クルーガーやロバート・ゴーバーの新聞紙や雑誌を用いた作品や、クーンズの掃除機やアイ・ウェイウェイの《コカコーラのロゴ》(2010)を比較。ほかにウォーホルの《マオ》をはじめとする「肖像画:有名人とパワー」では、モウリツィオ・カテランの彫刻作品、「大衆的イメージ:写真、イメージの盗用、抽象、連続性」「無境界:ビジネス、コラボレーション、スペクタクル(壮観)」では、ウォーホルが創刊したインタビュー誌やファッション写真家アヴェドン、ダミアン・ハーストの薬棚、村上隆のインスタレーション、キース・へリングのポップショップなどお馴染みの作品を展示。またウォーホルの影響を直接的に見せているシェパード・フェアレイの《バラク・オバマ》(2008)は印象に残った。簡単に結論付ければ、ウォーホルの絵画は、イリュージョンをもたらす奥行きを排除し、絵画を物体的にしていること。イメージは反復と現在性を含んでいること。絵、彫刻、インスタレーション全体がひとつのイメージとして把握でき、個人や感情とは無関係なこと。そして、マス・メディアの表層的な等価値観。「ファクトリー」の設立は、制作スタジオを活動基地として機能させ、作品制作を流れ作業の態勢にし、自らをブランディング化。そして死。
ウォーホル同様60年代からコンセプチュアル・アートやミニマル・アートに傾向しながらも一線を画していたリチャード・アーシュワーガーは1989年に「誰でもそれぞれのウォーホルを持っている」とカタログに記述しているが、50年を経てアメリカ・ポップアートはウォーホリズムとして脈々と生き続けているのだ。社会のシステムと私たちの日常が終焉しない限り。