フォーカス
グローバリズムのなかのアメリカ現代美術のいま──出発はウォーホルから
梁瀬薫
2012年10月01日号
“Genesis” 展 Dan Hernandez
Kim Foster Gallery
2012年9月6日〜10月6日
ニューヨーク初個展となったダン・ヘルナンデズの「ジェネシス」展は、展示された絵画作品群が、タイトルにあるように、旧約聖書に忠実に沿った伝統的な宗教絵画作品を彷彿とさせる。緻密な画面はイタリアルネッサンス絵画そのもので、そのフレスコ技法にも目を見張る。ところが、作品の内容は、セガの家庭用ゲーム機「ジェネシス」のゲームソフトの世界と融合させているのだ。1989年以降のヘルナンデズ世代には「ジェネシス」は最も流行った家庭用ゲームである。書物のなかのノアの方舟、アダムとイブといった誰もが知っている説話がゲームになる。宇宙からの侵略者を天使が兵となり発砲し、聖者たちが怪物と戦う。ヘルナンデズはしかしパロディーを狙っているのではなく、歴史と宗教や神話を現代のポップ・カルチャーのなかに再生させているのだ。
Karen Kilimnik & Kim Gordon
303 Gallery
2012年9月7日〜9月29日
ニューヨークを拠点として活躍する画家カレン・キリムニクと、80年代に結成し、インディーズで一躍スターダムの座に君臨したパンクロックのバンド、ソニック・ユースのキム・ゴードンによるビデオ・インスタレーション展。初めてのコラボが話題となる。イギリスの女性3人で1981年に結成されたポップグループバナナラマを引用し、演奏する側と観客との距離や、スペクタクル(演劇の見せ場)を探る。また90年初めのMTVのハウス・オブ・スタイルや、マドンナのフッテージを引用し、パフォーマンス芸術の定義と領域、そして影響を探る。
The Feverish Library
Friedrich Petzel Gallery
2012年9月6日〜10月20日
「ザ・フィーバリッシュ・ライブラリー(熱狂的図書館)」展は、今季開催されているグループ展のなかで最もユニークで画期的なショーとなった。アーティスト、キュレーター、そして著者のマチュー・ヒッグスとのコラボによっておよそ50人の著名アーティストの本に関連した作品を展示。図書館というノーマルな概念を捨て、書物をコンセプチュアルに、心理的に、そして文化的フォルムとしてとらえる。具体的には、ジョン・バルデッサリの写真作品《読書を学ぶ》(2003)、ロバート・ロンゴの絵画作品《1938年のフロイドの研究による本棚の研究》(2002)、マーク・ディオンの移動図書館など、書物や図書館を何かしら連想させる作品が集結している。実際の本棚のインスタレーションや書物を積み上げた作品はより具体的に図書館を提示するが、作品という規定のため観客は本を手に取ることはできない。この図書館の提唱は、ナンセンスか芸術か、それともどちらもありか?
“Come Closer: Art Around the Bowery 1969-1989” 展
New Museum
2012年9月19日〜2013年1月6日
2007年にニューミュージアムがマンハッタンのローワー・イーストサイドのバワリー通りにオープンしてから、同地区は急激に発展。それまでバワリー地区と言えば、ニューヨーク最悪のスラム街として知られていたが、パンクロックのCBGBをはじめ多くの若手アーティストが居住する地区でもあった。ニューミュージアムでは1969年から89年までの最も最悪な時期のバワリー界隈でアート活動をしていた作家に焦点をあてた展覧会を開催。キース・へリング、コレット・ルミエール、エイドリアン・パイパー、チャールズ・シモンズ、1974に結成されたパンク・ロックの元祖ラモ─ンズなど著名アーティストたちはじめ、20人のアーティストの当時の作品とドキュメンタリーで、当時のバワリーのパワーを知る。インターネットも携帯もなかった時代のローカル・カルチャーが持つエネルギーは格別だ。