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他愛ない私たちの会話:Art Dubai 2013にて
松原慈
2013年04月01日号
3月12日、モロッコからアラブ首長国連邦へ飛ぶ。私が今いるフェズという街は、中世の夢がそのまま化石になったような世界。フェズの旧市街の街区は車が入れないので、道行くのは人とロバのみ。周辺を走る車といってもプティ・タクシーと呼ばれる赤いフィアットだけ。そこからワープしたドバイで、となりのシャルジャに向かう車窓から真夜中の街の様子を眺める。眠たい目でも、暗闇を走っていてもギャップは感じる。
Sharjah Biennal のオープニングウィークに合わせて開催されたMarch Meeting というカンファレンスにスピーカーとして招いてもらったので、この国を初めて訪れることになった。シャルジャ・オープニングウィークが終わると翌日からArt Dubai というアートフェアがオープンし、そちらへも足を延ばした。今年のSharjah Biennalは日本人である長谷川祐子さんがキュレーターを務めて、ビエンナーレの質が、パラダイムシフトとして大きな注目を集めていたけれど、Art Dubaiにも、いくらか知っている人たちが積極的にかかわっていたのだ。
Art Dubaiは商業フェアだが、そのなかに、Markerというキュレーテッド・セクションがあって、毎年ひとつの地域に照準を合わせて、現代美術の活動を紹介する。昨年はインドネシアだったというが、今年はそれがアフリカ、とくに西アフリカに絞られた。今年のMarkerセクションは、ナイジェリア・ラゴスでアートセンターを主宰するビシ・シルヴァが統括して、ナイジェリア、セネガル、ガーナ、カメルーン、マリからそれぞれギャラリーやアートスペースが招かれ、フェアでの展示・販売や活動に関連してトークなどを行なった。
ロバどころか動物も虫も見当たらない、どのビルも2000年代に建ったばかり、800mのタワーのてっぺんは風で常時ふらふらしている、というこの街で行なわれるアートフェア。忙しく動き回る世界のアート関係者たち。インド、バングラディシュ、パキスタンなど、外国人ばかりのホテル従業員とタクシー運転手。忙しい街に忙しい人たちが集まって忙しくしている一週間の、他愛のないとぎれとぎれの会話から。
5名の登場人物:
Bisi Silva:キュレーター、Center for Contemporary Art Lagos主宰(ナイジェリア)
Koyo Kouoh:キュレーター、Raw Material Company主宰(セネガル)
Aboubakar Fofana:アーティスト(主にインディゴ)、マリ出身
Emeka Ogboh:アーティスト(主にサウンド)、ナイジェリア出身
Omar Berrada:作家/翻訳家、モロッコ出身