フォーカス
ニューヨークの夏はアウトサイドアートの旬
梁瀬薫
2013年07月01日号
欧米ベテラン作家による見ごたえのある作品が都会の喧騒のなかでパワーを発揮。
Human Nature by Ugo Rondinone/ウーゴ・ロンディノーネ「ヒューマン・ネイチャー」
ロックフェラーセンター(30 Rockefeller Plaza)
2013年4月23日〜7月7日
ニューヨークの現代パブリックアートのなかでも、オフィス街はミッドタウンの顔、通称「30ロック」と呼ばれるロックフェラープラザほど注目度の高いロケーションはない。過去のルイーズ・ブルジョア、ジェフ・クーンズ、村上隆、アニッシュ・カプーアなどによる大規模な作品も大きな話題を集めてきた。そして今季はNY在住(1964年スイス生まれ)のウーゴ・ロンディノーネによる巨大な石の彫刻作品群「ヒューマン・ネイチャー」が道行く人々の足を止めている。
ロンディノーネは絵画、彫刻、フィルム、インスタレーションなど多様な表現で20年以上芸術活動を続けているマルチメディア・アーティストだ。ニューミュージアムのファサードに3年間設置されたレインボーカラーのサイン「ヘル・イエス!」はニューヨーカーなら誰でも見たことがある作品だろう。カラフルでストレートなメッセージが受け入れられた。
今回制作されたのは高さ最大約6メートルもある、ほとんど手の加えられていない自然石9体の人物像で、これまでよく知られてきたサインやユーモラスな彫刻作品とは異なるアプローチである。「ロックフェラープラザには何度も足を運んで何をすべきか考え続けた。最後にたどりついたアイデアが『何か基本的なもの』。つまり近代文明都市をまさに象徴するこのロケーションとのコントラストは何かということで、最も原初的な素材である石で単に人体を表わそうと思った」という。胴体と頭だけのシンプルな像は、アールデコの優雅なロックフェラービルの谷間にあたかも太古から時空を超えて突如として現われた巨人たちといった印象だ。ちなみに足の部分だけでストーンヘンジ(紀元前2600年のストーンサークル)の一番大きな石とサイズが同じだという。風雨に長い間さらされてきたかのようなこの巨大な石の塊にはコミュニケーションもダイアローグもメッセージも現代の情報社会とのつながりもない。あるのは人間性という普遍的本質だ。