フォーカス
ニューヨークの夏はアウトサイドアートの旬
梁瀬薫
2013年07月01日号
And How Many Rains Must Fall before the Stains Are Washed Clean (2013) by Imran Qureshi/イムラン・クレシ「そしてシミが洗い流せるまでに何度雨が降ればいいのか」
メトロポリタン美術館屋上
2013年5月14日〜11月3日
メトロポリタン美術館屋上でのパブリックアート展は、ニューヨークのアートシーンでは季節の行事とも言えるほど重要なイベントとなっている。セントラルパークを臨む屋上という空間上、これまで立体による作品がほとんどだったが、今季は2013年第55回ベネチア・ビエンナーレにも選出され、また本年度のドイツ銀行グループの「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれた、パキスタン出身の期待のアーティスト、イムラン・クレシによる細密画が床一面に広がる。
クレシは16世紀のムガル帝国時代の伝統的な細密画の題材を受け継いでいる。赤絵の具を滴らせて、そこから花や鳥の羽根など細かいモチーフを精密に描いていくという独特の手法だ。ジャクソン・ポロックのドリッピングの手法とも重なるが、ここに広がる赤は実は乾いた血を表わしており、鑑賞者は犯罪現場か虐殺後のような恐ろしいシーンを想像することもできる複雑なコンセプトを含有する。自国パキスタンでの暴力から、戦争、テロ、最近起きたボストンマラソンでの惨事まで、世界中のあらゆる暴力と惨事への痛恨と、鎮魂、そして未来への願いを込めているのだ。アートで暴力を防ぐことはできないが、傷ついた私たちの世界を癒すことはできる。