フォーカス

ヴェルサイユ宮殿 恒例現代美術展「ペノーネ ヴェルサイユ(Penone Versailles)」

栗栖智美

2013年11月01日号

伸びやかに展開される屋外作品

 しかし、天気のいい日ならば鑑賞者は庭園に繰り出し、歩いて王妃の住居へ向かうだろう。宮殿を背にし、まっすぐに大運河まで伸びる一本の大きな道に立ったとき、ペノーネの長さ20mの《SPAZIO DI LUCE》や、高さ10mを超す《TRA SCORZA E SCORZA》に気がつかないわけがない。前者は薄い木の皮の内面を金色に塗り、何本も一直線に連ねた作品。奥に行くにつれて樹皮の直径は小さくなっていくので、端から覗くと一本の木の年輪を見ているようだ。後者は1999年にヴェルサイユ宮殿を襲った嵐によって倒された木を使った作品。ペノーネはその木を宮殿友の会のオークションによって購入し、樹皮を取り出し、か細いカシの木を両側から保護するようなかたちで配置する。再び嵐が木を倒さないようにそっと盾となっている頼もしくも優しい作品である。


《Spazio di luce》2008、ブロンズ、金


《Tra scorza e scorza》2003 ブロンズ、カシワ


 噴水を過ぎると、6つの巨大な大理石の作品《ANATOMIE》が現われる。これはイタリア・カララ産の白大理石から、人間で言う「静脈」、植物で言えば「葉脈」を掘り出した作品だ。昔の彫刻家はあえてこの縞模様がある大理石を選んだという。その方が作品に息を吹き込むことができるからだそうだ。現代の彫刻家ペノーネは縞模様の大理石を選び、その息吹そのものを掘り出していく。見ているものは葉脈を拡大して見ているようにも思え、重厚感のある大理石に軽さや生物の鼓動を感じることができる。


《Anatomia》2011、カララ産白大理石


 そのまま大運河へ足を進めると、3つの作品が点在する。《ALBERO FOLGORATO》は、いままさに雷に打たれた木のような作品。《TRIPLICE》は根っこが持ち上がって3本の幹が地面にしなったり上へ伸びたりしている。枝に乗った石の重さでそうなったのか、絶妙なバランスを保つ木の柔軟さを感じることができる。《LE FOGLIE DELLE RADICI》は木が逆さまになり、空に向かって伸びる「根」の上に鳥の巣が乗った微笑ましい作品。


《Albero folgorato》2012、ブロンズ、金



《Triplice》2012、ブロンズ、石



《Le Foglie delle radici》2011、ブロンズ、植物、土


 これらが、ル・ノートルのフランス式庭園様式の基軸となるメインストリートに配置されている。一方でこの庭園には数々の小径があり、その奥に隠れた植え込みがある。そこにもペノーネの作品群が置かれている。ひとつは《ELEVAZIONE》で、地面から1mの高さに根っこごと木が浮いているような作品だ。ここにはほかに、枝の上に石が乗った作品が多数置かれており、人里離れた森の中で行なわれるカルトの空中浮揚や苦行を彷彿としてしまう。神秘的な雰囲気からストーンヘンジのようだと表現している新聞もあったが、ペノーネは「そう言う人もいるけど、私は一度もそんな話をしたことはない。それにストーンヘンジに行ったこともないし……。でもいいんじゃない?」と返している。実のところペノーネは作品についてこう見てほしいと語ることはない。語るのは素材をどこで見つけ、どのような行程で型どり鋳造し配置したのかということばかりで、解釈は完全に鑑賞者に委ねられている。


《Elevazione》2011、ブロンズ、木 © Courtesy Giuseppe Penone - photo tadzio


 ヴェルサイユ宮殿の庭園に突如として現われたペノーネの作品。ル・ノートルが自然を征して庭園をつくったように、彼もまた自然を変形した作品で応えている。だが、ペノーネは自然の一部をクローズアップしたり、少々風変わりな姿を提示するだけで、自然に対して絶対的優位に立っていたル・ノートルとは違う。さらに木を変形したと思い込んでいた作品の多くが、実はブロンズで鋳造されていることも、彼の自然への独特なアプローチである。本物の木や石とつくられた木の組み合わせ、自然と人工物の対話のなかに鑑賞者を誘うのが彼の作品なのだ。自然の模倣がその根本にあり、それを通して見過ごしてしまいがちな大いなる自然の生き様や美に注目することができる。Penone Versailles はル・ノートルのつくった人工的な自然に、ペノーネの自然な人工物が寄り添う展覧会であった。



「ペノーネ ベルサイユ」展 Penone Versailles
(アルフレッド・パックマン[Alfred PACQUEMENT]キュレーション)

会 期:2013年6月11日から10月31日まで
定休日:月曜日
時 間:9:00〜18:30
場 所:ヴェルサイユ宮殿
    Château de Versailles Place d’Armes, 78000 Versailles
詳細URL:http://www.chateauversailles.fr/les-actualites-du-domaine/evenements/evenements/expositions/giuseppe-penone-versailles

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