フォーカス
モビリエ・ナショナル:Les Gobelins au siècle des Lumières──Un âge d’or de la Manufacture royale展/Carte Blanche à Pierre et Gilles展
栗栖智美
2014年05月01日号
2つの展示が示すフランスの現代性──400年をつらぬくポリシー
このようなモビリエ・ナショナルの使命を知ったうえで今回の展示を観ると、一見何の関係もなさそうな二つの展示の同時開催の意味がよくわかる。
大きな展示室の1階と2階を使った「Les Gobelins au siècle des Lumières──Un âge d’or de la Manufacture royale」展は、17世紀から18世紀にかけて世界中のアートとデザインを牽引した王立製作所で製作された作品にスポットを当てた展示。25のタピスリーを中心に、25のカルトン(下絵)、そして25のデッサンや版画が展示されている。ショッキングピンクやシエルブルーが基調となっているタピスリーの色彩の鮮やかさ、タブローのように精密にモチーフのテクスチャーを表現した技術に観客は驚き、ルーヴル美術館やヴェルサイユ宮殿で見たような重厚で豪華なアカンサス紋様の縁取りや生き生きと描かれた植物の美しさにうっとりする。動物ばかりを大画面に配した愉快なタピスリーに心癒され、18世紀のフランスの芸術のレベルの高さに改めて気づかされる展示だ。一本一本の糸を複雑に織り上げてつくり上げる壮大な時間の流れを考えると、ブルボン王朝の富と栄光に圧倒される。
一方、2階の片隅に位置するサロン・キャレでは「Carte Blanche à Pierre et Gilles」展と題して、キッチュなほどに飾り立てられた人物とおとぎ話のような背景のポートレートで有名なピエール&ジルの小さなインスタレーションが展示されている。アルジェリア出身の若手ランジェリーデザイナーであるザヒア・ドゥハール(Zahia Dehar)が、マリー・アントワネットに扮して、ヴェルサイユ宮殿の王妃の離宮のようなあばら屋を背景にたたずむポートレート。それがモビリエ・ナショナルのコレクションである暖炉(ヴェルサイユ宮殿所有)の上にかけられている。また、同コレクションの燭台、鏡、ソファなどがまわりを飾り、映画『レミーのおいしいレストラン』に出てきそうなネズミたちが家具の足下でいたずらをしている。現代版マリー・アントワネットであるザヒア・ドゥハールのポートレートも、部屋の壁に照らされたカラフルな光も、モビリエ・ナショナルのコレクションであるはずの高級家具も、ピエール&ジルの手にかかるとエレガントとはお世辞にも言いがたく、チープでキッチュな演劇の舞台装置のような印象になる。フランスが誇りをもってつくり上げた家具のイメージさえも大きく変えてしまうピエール&ジルの強烈なインスタレーション。それをモビリエ・ナショナルが「現代性」として寛容に受け止め、さらには嬉々として展示するあたり、フランスのアートへの懐の深さを示しているように思う。
400年も続く国立の家具やタピスリーの製作所は、常に同時代のアーティストの「現代美術」をフランスのアートとして国内外にアピールしてきた。その過去の偉業を振り返りながら、いまの新鮮なアートも昔と同等に扱う今回の展示には、観客の方がその表現のあまりの違いに戸惑ってしまうだろう。しかしモビリエ・ナショナルとしては、常に同時代を扱ってきたわけで、私たちはその400年の変わらぬポリシーをこの2つの展覧会で見出さなければならない。
Les Gobelins au siècle des Lumières──Un âge d’or de la Manufacture royale
啓蒙時代のゴブラン織──王立製作所の黄金期
会 期:2014年4月8日から7月27日まで
閉館日:月曜日
場 所:Mobilier National
42 Av des Gobelins 75013
Galerie des Gobelins, Paris
Carte Blanche à Pierre et Gilles
ピエール&ジル「カルト・ブランシュ」
会 期:2014年4月8日から9月27日まで
閉館日:月曜日
場 所:Mobilier National
42 Av des Gobelins 75013
Galerie des Gobelins, Salon Carré, Paris