フォーカス
ヴィジュアル・ミュージシャン ビョークが奏でる視覚音芸術に触れる
梁瀬薫
2015年05月15日号
アイスランドの革新的な芸術家として、類い希なミュージシャンとして、世界的に知られているビョーク(1965年生まれ、アイスランド出身)の20年間の中間キャリアを追った回顧展がニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された。
2000年にMoMAからの話をビョークが断ったこともあり、今回の展覧会への期待は開催前から高まっていた。展覧会オープニングには各メディアが殺到した。しかし、今回の展覧会がニューヨーク・タイムズ紙をはじめ多くの評論家から大不評を買ったのである。たしかに同美術館で開催した映像監督のティム・バートン展やユーゴスラビア出身のパフォーマンス・アーティストの女王マリーナ・アブラモヴィッチ回顧展に比べると見劣りのする規模だ。批評家たちからはお墨付きのビョークの類い希な才能に問題があるのではなく、展示側に問題があったことは否定できない。今回入場制限のあるメインの会場は、ファンタジー溢れるビョークの世界を探る空間として設定されているが、それにしては狭い。しかもアルバムのために一流のアーティストによってコラボされた衣装が、マネキンに着せられて床に立っているのだ。見当外れの蝋人形館のような印象さえも。しかしながら40分並んで展示を見た一般客の満足度は高く、逆にビョークの音の芸術は展示の規模に左右されないということなのであろうか。
批評はさておき、本展は館内の2階と3階を使い、1993年の初のソロアルバム『デビュー』から今回の回顧展のために制作した『ブラック・レイク』まで、20年以上のキャリアを結集。1階には、パイプオルガンやテスラコイルという貴重な楽器も展示された。ビョークといえば2001年のアカデミー賞授賞式でのセンセーショナルな白鳥のドレスがいまでも記憶に新しいが、アメリカを代表する現代美術作家マシュー・バーニーの十数年に及ぶパートナーであったことでも知られている。バーニーが1980年からライフワークとして挑戦している『拘束のドローイング』のなかの、茶道や捕鯨をテーマにし、日本で撮影された「シリーズ9」では、音楽を担当しただけでなく本編でのバーニーとの共演でも注目を集めた。身体をテーマにしたメタフォリカルなバーニーの究極のアートとファッション性、ビョークの音とビジュアルの感性とのコラボは、『クレマスター』やビョークの『ヴェスパータイン』(2001)などに顕著だ。