フォーカス

ヴィジュアル・ミュージシャン ビョークが奏でる視覚音芸術に触れる

梁瀬薫

2015年05月15日号

 本展のメイン会場とされた「ソングライン」では観客はオーディオヘッドフォンにより、ナレーションとミュージックでこれまでの8作のアルバムとそれぞれの登場人物を紐解いていく。オブジェや衣装だけでなくビョークの手書きの日記や楽譜も展示され、興味深い。クリス・カニングハムのロボットやロンドンの偉大なファッションアーティストとして知られるアレクサンダー・マックイーン(1969-2010)による鈴のドレス、そして最新作でも着用しているヘッドピースをつくった武田麻衣子の創造性には目を見張る。これまでコラボしてきた各分野のアーティストとのシナジー効果の高さをも立証している。


楽譜


Chris Cunningham, British, born 1970
"All is Full of Love" Robot 1999
187x63x103cm
Photo by Jacques De Melo


4枚目のアルバム。故郷アイスランドに捧げ、エレクトロニックビートと弦楽器を組み合わせた。衣装は「ベルドレス」同様アレクサンダー・マックイーン。芸者をイメージしたという。 Björk, Homogenic, 1997
Credit: Photography by Nick Knight. Image courtesy of Wellhart Ltd & One Little Indian


Iris Van Herpen, Dutch, born 1984
Biophilia Dress 2011 Plastic, cotton
80 x50cm 1.5kg
Photo by Jacques De Melo


ウニのようなヘッドピース
Maiko Takeda
Atmospheric Reentry, 2013
Plastic films, acrylic discs, rhodium plated metal jump rings
Photograph by Danny Clinch

 3つの会場のなかでは一番小さな空間が「シネマ」と題された部屋。文字通り映画館のようにスクリーンがあり、椅子のかわりに、座るでも寝そべるでもないような、ベッドの半分のサイズのソファーが置かれている。1993年の『デビュー』から2011年の『ビオフィリア』のヴィデオクリップが流される空間だ。無垢な子どもにも、成熟した女性にもなれるビョークの演技力と表現力そして独創性が認められる。自然とテクノロジー、ファインアートとファッション、都市と社会、そしてなによりもヴィジュアル・ミュージックだ。どのクリップからもロックビートが心の底に響く。ビョークの音は紛れもなく生である。最低でも40分間は要するクリップだが、ほとんどの観客はこのシネマで変幻自在のビョークの魅力を堪能することになる。

'city' was the place to go hunting for mysteries...to prove the impossible did exist...
「シティー」はミステリーを探し求めるところ……不可能が存在することを証明するため……
(Post 1995)より