フォーカス
ヴィジュアル・ミュージシャン ビョークが奏でる視覚音芸術に触れる
梁瀬薫
2015年05月15日号
本展のメイン会場とされた「ソングライン」では観客はオーディオヘッドフォンにより、ナレーションとミュージックでこれまでの8作のアルバムとそれぞれの登場人物を紐解いていく。オブジェや衣装だけでなくビョークの手書きの日記や楽譜も展示され、興味深い。クリス・カニングハムのロボットやロンドンの偉大なファッションアーティストとして知られるアレクサンダー・マックイーン(1969-2010)による鈴のドレス、そして最新作でも着用しているヘッドピースをつくった武田麻衣子の創造性には目を見張る。これまでコラボしてきた各分野のアーティストとのシナジー効果の高さをも立証している。
3つの会場のなかでは一番小さな空間が「シネマ」と題された部屋。文字通り映画館のようにスクリーンがあり、椅子のかわりに、座るでも寝そべるでもないような、ベッドの半分のサイズのソファーが置かれている。1993年の『デビュー』から2011年の『ビオフィリア』のヴィデオクリップが流される空間だ。無垢な子どもにも、成熟した女性にもなれるビョークの演技力と表現力そして独創性が認められる。自然とテクノロジー、ファインアートとファッション、都市と社会、そしてなによりもヴィジュアル・ミュージックだ。どのクリップからもロックビートが心の底に響く。ビョークの音は紛れもなく生である。最低でも40分間は要するクリップだが、ほとんどの観客はこのシネマで変幻自在のビョークの魅力を堪能することになる。
'city' was the place to go hunting for mysteries...to prove the impossible did exist...
「シティー」はミステリーを探し求めるところ……不可能が存在することを証明するため……
(Post 1995)より