フォーカス

ボトムアップで支える文化のインフラ──MotionGallery 大高健志氏に聞く

大高健志(MotionGallery代表)/内田伸一(編集者、ライター)

2020年08月01日号

新型コロナ禍は、全国の映画館、劇場、書店など、「文化芸術の送り手」たちの足元も大きく揺さぶっている。そうしたなかで、クラウドファンディングで彼らを支援する動きが話題を呼んだ。日本のクラウドファンディング史上最高額となる3億円を達成した「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」を皮切りに、「小劇場エイド基金」「ブックストア・エイド(Bookstore AID)基金」がそれぞれ多くの支援金を集めている。
これらは国内クラウドファンディング・プラットフォームの草分けであるMotionGalleryで立ち上がったものだ。異例のヒットとなったインディーズ映画『カメラを止めるな』制作上映支援プロジェクトの足場★1となったことでも知られる。代表の大高健志氏は早稲田大学を卒業後、外資系コンサルティング企業に就職。その後、東京藝術大学大学院で映像制作を専攻し、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。上述の基金プロジェクトでは、自らも発起人になるなどこの動きを牽引したキーパーソンに、背景にある想いを聞いた。


大高健志氏

文化芸術活動への支援をテーマにしたクラウドファンディング

──大高さんはMotionGallery代表であり、立場としては支援を募る「プレゼンター」たちに場を提供するプラットフォーマーですね。しかし「ミニシアター・エイド基金」では、映画監督の濱口竜介さんや深田晃司さんと共に発起人となり、この動きを牽引しました。それだけ強い気持ちがあったのでしょうか。

大高健志(以下、大高)──そうですね。この基金の支援対象は、全国のミニシアターと呼ばれる小規模映画館。プロジェクトは緊急事態宣言下の4月13日にスタートし、最終的には3万人近くの方々から合計3億3千万円以上を集めることができました。このお金は、参加劇場となるミニシアター(全国118劇場・103団体)への支援金として分配されます。

──これは国内クラウドファンディングが達成した最高額だそうですね。ここまで支援の輪が広がった要因をどう見ていますか?

大高──やはりタイミングと、公共性、発起人のあり方という3点だと思います。タイミングというのは、「SAVE the CINEMA」★2のように同じ方向性をもった署名活動とも連動して動いたことで、ミニシアターの置かれた現状が広く伝わったこと。公共性とは、この後もお話しすることになると思いますが、みなが苦境にいる中で、経済面から文化芸術を支えようという連帯をしっかりと唱えられたこと。発起人のあり方とは、濱口・深田両監督をはじめとして、われわれMotionGalleryも含め、映画に関わりミニシアターの社会的重要性をしっかりと実感を持って話せる「他者」が呼びかけたことで、当事者のみからの発信だと受けやすい誤解を避けることができた点です。



MotionGallery 「ミニシアター・エイド基金」プロジェクトのページより


──当事者のみからの発信だと生じ得る誤解というのは?

大高──たとえばですが、「自分たちだけ助かればいいと思っているのか」「映画(館)だけが重要だと思っているのか」といった非難が起こってしまうことですかね。特に今回は、本当に応援したいと思う人たちが、支援に対して違和感なく、いわば心理的に「摩擦係数ゼロ」で参加できるようなものにすることが重要だったので、それに近い形にできたのは幸いでした。またMotionGalleryの立場から言えば、自分たちが運営するクラウドファンディングのサイトを使う際、取り上げ方などで優遇することは一切しませんでしたが、プラットフォーマーである僕らが、これまで支援を募る人たちへの助言として活用してきたナレッジをつぎ込めた部分はあります。MotionGalleryが立ち上げ当初から、文化芸術活動への貢献をテーマにしてきたこともプロジェクトと相性がよかった。会員の多くが文化芸術に関わることに意欲的なので、短期間で支援に集まってくれました。

──ミニシアター・エイド基金は、スタート同日にDOMMUNEでの記者会見も行なうなど、広報にも力を入れていましたね。

大高──はい。ただ、驚いたのはその日、13時に基金プロジェクトを公開し、17時の記者会見直前ですでに4、5千万円が集まっていたことです。クラウドファンディングのプラットフォームは、いわば雑誌のようなもの。大切にしている価値観などを一定共有していて、そうしたものに対してはお金を出して応援しようというマインドを持つ人が集っているようなところがあります。

──今回、行政の文化芸術支援を求めて諸芸術領域からキャンペーンが立ち上がりました。多くは要望書と賛同者の署名をベースにしたもので、ミニシアター・エイド基金と連携した「SAVE the CINEMA」もそのひとつですね。そこから行政との交渉などに発展させるには、継続的・包括的な同業者組織づくりも鍵かと感じました。対してクラウドファンディングは、呼びかけごとに自由意志で関われる点では署名と一緒ですが、意思を直にお金という形で活かせる迅速性や具現化の力があると感じます。単純比較はできませんが、文化支援におけるクラウドファンディングの特性をどう考えていますか?

大高──より正確に言えば、そうした特性はクラウドファンディングを運営する事業者の思想哲学に依ると思います。仕組み自体はEC的な面もあるので、たとえばユニークな発想のガジェット制作・販売プロジェクトと、そうしたものが好きなユーザーが結びつくような場も人気です。一方、僕がクラウドファンディングに期待するのは、想いだけでなくお金が動くことで実際のアクションが生まれ、その先に社会が変わっていく可能性もあるのではないか、ということです。僕はヨーゼフ・ボイスの言う社会彫刻★3の概念は素晴らしいものだと思います。ただ、とても概念的なものでもある。

──そこにクラウドファンディングという仕組みの可能性を見た?

大高──これを適切に運営し、皆が適切に使ってくれれば、それ自体が社会彫刻的な芸術活動にもなり得るのではと思いました。つまり、人々のお金の使い途に選択肢を増やすことで、イニシャルコストがないゆえに目指す作品が作れない表現者なども、支援を得てそれをアウトプットできるようになる。同時に、支援に関わった人たちは、比較的低いハードルで芸術の制作過程に関われることで、さらにその作品から新たな気づきを得たり、新しい思考に出会うこともあると思うのです。僕らはクラウドファンディングをそういう場ととらえ、運営をしています。

──今回の一連のプロジェクトも、単にお金が集まればよいわけではないということですね。クラウドファンディングでは、支援者に「リターン」があるのも特徴です。ミニシアター・エイドでは、支援対象館で使える映画鑑賞券「未来チケット」などが、また小劇場エイドではネット上の観劇サイト「ステージチャンネル」の有料会員権などが贈られる仕組みでした。

大高──最も大事なのは、ファンドの立ち上げ側が本当の思いをきちんと発信し、それを理解した人が応援するということでしょう。そうした関係はやはり真っ当で美しいと思うし、筋が通っているという点では目標額の達成につながるだけでなく、トラブルも起きにくいんですね。いかにネット経由でお金を集めるかで言えば、ギミック的な手法もたくさんあります。でも、安易にそこへ逃げないよう、関わる皆さんにはお願いしています。芸術との接点を広げるという文脈で、とにかくリーチさえ広げればいいとの考え方は採りません。それは芸術を毀損する恐れさえあると思うからです。基金プロジェクトの熱量も、そこが伝わった結果だとしたら嬉しいですね。

支援の輪を広げる鍵は「格差と分断」に加担しないこと


──一連の基金は大きな結果を出した一方で、難しい判断を迫られた局面もあったのではないでしょうか。たとえば全国の書店・古書店を応援した「ブックストア・エイド基金」では当初、支援者へのリターンとして対象書店さんによるエッセイ執筆を発案しましたが、最終的には必須条件としないなどの調整がありましたね。また、ミニシアター・エイド基金では目標達成後、支援対象館のひとつ、アップリンクの浅井隆代表が元社員らにパラハラで告発される出来事★4があり、基金側は声明文★5を出すなどして対応しました。

大高──アップリンクのことでは、あの出来事を受けて支援対象から除外するという選択はしませんでした。そこは発起人たちの間でも、いい意味で議論が必要なかったというか、異論がなかった。もちろんパワハラ自体は許されることではなく、重く受け止めるべきです。ただ、プロジェクトの最終目的は、発起人を中心に発足時点でかなり議論してからスタートしており、何が起きてもブレない方針が共有できていました。だからスピーディに対応できたし、それは支援者の信頼にもつながると考えています。

──最初の議論とは、どんな内容だったのでしょうか?

大高──たとえば支援対象を考えるうえで、「そもそも何をもってミニシアターとみなすか」という点からですね。映画界の人同士なので言わずもがなとなりがちですが、あえてそこから話し合った。前提として、今回は公共性の高い支援ということがあったのと、コロナを受けてより顕在化してきた「格差と分断」に加担するような動きはしたくないというのがありました。となると、支援対象となるミニシアターの選別は、僕らの側では一切行なうべきでない。席数だけで決まるものではないし、経営規模やバックボーン、経営者の人となりなどは知り得ないことの方が多い。そこで、対象になり得る館全てに連絡し、「ご自分たちも支援対象になると思う場合は参加してください」という形で選択を委ねました。こうした方針はクラウドファンディングのページでも説明しています。



MotionGallery 「ブックストア・エイド基金」プロジェクトのページより


──ブックストア・エイド基金の件も、同様に本質的な議論を元に判断したということでしょうか。

大高──外から見るとブレたように見えるかもしれませんが、そうではないと思います。書店さんによるエッセイ執筆の案は、もともと今回なぜ寄付ではなくクラウドファンディングなのかが重要だったことと関係しています。3.11でクラウドファンディングが広まった、というのはよく言われることで、今回もそうした声を聞きますが、僕は今回のことは3.11のときとまた違うと感じています。東日本大震災で被災した方々へのクラウドファンディングによる支援は、無事だった人たちからの寄付的な性格が強かった。対して今回は、全ての人がダメージを負うなかで、経済とお金の循環を止めないことで文化施設を支えよう、次の日常が始められるまで時間を稼ごうということを目指しました。

──どちらがよいということではなく、今回の状況は大高さんの目指す社会彫刻的なクラウドファンディングとの親和性がより高かったということですね。そして、だからこそ、一方向の寄付ではない形が望まれた。

大高──はい。やはり支援者へのリターンも提供したいと考えました。それを本屋さんに伝えて話し合った結果、各書店さんにエッセイを綴ってもらい、一冊にまとめて贈る案が生まれました。ただ、なかには個人経営で執筆時間も無いような書店さんもあるとわかり、より柔軟に参加できるようにした経緯があります。プラットフォーマーの立場で言えば、全ての書店が参加できることを目指すより、いわば「集金力」のある支援対象を集めるほうが効率的かもしれない。でも今回は、大きく声を上げられないお店にも支援を届けられる仕組みにすべきだと考えました。

──支援対象が映画館、劇場、書店とさまざまなジャンルに挑んでいったことも印象的です。

大高──やはり多様な文化芸術に貢献したいので、ご縁もあって小劇場や書店についても動くことになりました。現代アートについても新たに基金プロジェクトを立ち上げる方向で動いています。これについては、どういう形が良いのかを色々考えていました。ギャラリー支援はあり得るかもしれませんが、美術館への支援となると、それは行政が担う領域ではないかとも思える。そう考えると、たとえばベネトン財団が行なったように、才能ある作家への制作支援という形で、最終的に作品発表の場も含めて考えていくことはひとつの可能性かもしれない。そうした議論も経て、具体的に動き出したので近々発表できると思います。

──3.11の時のお話もありましたが、こうした苦境を超えて生まれる表現については、どんな期待を持っていますか。

大高──3.11の時は、多くの優れたドキュメンタリー映画が生まれたことが印象に残っています。それらには、被災地をめぐって土地の声や様子をアーカイブするという意味合いもあった。一方で今回のコロナ禍では、そもそも外に出るなと言われる状況で、カメラを持って出ていくのは難しいように思います。しかし、こういうときでも何がしかのアーカイブ的存在になり得るのは、小説や現代アートではないか? そこには社会的な価値があるのではないか? そんなことも考えます。

理想とするのは行政の文化支援との相乗効果


──今回、支援に加わった人々については、どのような思いが、基金の輪を広げたととらえていますか?

大高──その質問で思い出すのは、京都のミニシアター「出町座」の支配人、田中誠一さんの言葉です。ここは2017年の開館時もクラウドファンディングを活用し、目標の約3倍、1千万円近くの支援を集めて生まれた場所です★6。田中支配人のお話で面白いなと思ったのが、「クラウドファンディングによって、応援してくれる人とのつながりが3Dになった」という言葉でした。つまり、映画館もこれまでだと「半径何メートルのエリアの人口がどれくらいいて、実際のお客さんが何人くらい来てくれると成り立つか」といったことを中心に事業計画を考えてきた。ただ、クラウドファンディングの誕生でそれが3Dになった、すなわち「歴史」という次元が加わったというんです。

──「歴史という次元」とは?

大高──このとき応援してくれた人は、大きく分けると3タイプいたそうです。まず、ともかくミニシアター文化を愛している人。次に、同じ地域に住んでいて「ここにミニシアターができたらいいな」と実生活面で思ってくれる人。そして最後に、かつて学生時代などにこの街に住んでいた人だそうです。いまは遠方で暮らす人もいて、支援のリターンで贈られる劇場チケットも使えるかわからない。でも「もし自分が住んでいたころミニシアターがあったら、どんなに豊かな学生時代を送れただろうか。そう考えると地域のために応援したい」という声があったそうです。つまり、かつてそこで生きた人たちが、次の世代を応援する意味で関わっている。今回の基金群でも、そうした方々はいたのではと考えます。



MotionGallery 「小劇場エイド基金」プロジェクトのページより


──最後の質問です。今回のことは、クラウドファンディングがいわば民間の、かつボトムアップ的な形で、文化芸術を支え合う可能性を示したと思います。一方で今回、行政による文化芸術支援の大切さも各所で議論になっています。文化庁による文化芸術関係者への緊急支援などもありますが、クラウドファンディングを含む民間型の支援と、行政による支援、両者の今後の関係性をどう考えていますか。

大高──クラウドファンディングの力を高く評価してもらうのは、今後のためにもありがたいことです。ただし、民間の力でも頑張ればこんなにできるじゃないか、というので行政支援が縮小されるようなことは、決してあってはいけないと思う。それは僕らが目指すのとは全く逆の流れです。日本の文化芸術支援は、ドイツやフランス、韓国などと比べてもまだ圧倒的に小規模です。ですから、民間もここまで頑張っているから、行政もしっかりお願いします、というのが僕らの本来のメッセージです。

──当たり前ですが、どちらか一方のみが担うものではないと。

大高──クラウドファンディングを通じて優れた作品が生まれることで、日本でも文化芸術活動の必要性のようなものがもっと共通の見解になっていけばと思います。そして、それは助成金などの行政支援がより充実していくことにもつながり得ると思う。他方、行政支援だけが頼りになることで、たとえば助成金を取るのが上手い人ばかりが恩恵に与るような状況はまずいと思うわけです。こう考えると、ファンや鑑賞者の側から支援が立ち上がることで、行政支援からは生まれてこないタイプの表現が現われる可能性もある。双方がよいバランスで互いの貢献性を高め合い、かつ表現に関わる人が正当な環境で作品をつくり/送り出せる環境が整うのが、理想だと思っています。



取材のなかで大高氏に伺ったこととして、実は、今回のことでMotionGalleryの会員数が大幅に増えたということはない、というお話があった。これは、既に会員だった人々が支援の原動力だったという具体的な証左で、話題を呼んだ支援の動きも、彼らが10年近く積み上げてきたものの上に成り立っていたということを改めて思った。ただ、大高氏は「これからクラウドファンディング全般の利用者は増えるだろうと思う。というより、そうなるよう僕らは頑張らなくてはいけない」とも語った。クラウドファンディングは大高さんの目指すような、新たな「文化のインフラ」として定着していくのか。また取材でも語られたような、行政による文化支援とのいい関係はいかに築き得るのか。それは大高氏のようなキープレイヤーに期待するだけでなく、「クラウド」たる私たち皆で考えていきたい課題でもある。


★1──「『大嘘をつくにはお金が必要』“カメ止め”が行なったクラウドファンディング(ネタバレあり)」(MotionGallery: Magazine)https://motion-gallery.net/blog/ueda-cinemaproject1
★2──2020年4月4日、新型コロナウィルスの影響で存続の危機にたたされたミニシアターを救済するため、有志の呼びかけ人と賛同者によって設立。政府への緊急支援の要望書を作成し、change.orgでの署名(91,659筆)とともに、政府や関係省庁へ要望書を提出。のちに「演劇緊急支援プロジェクト」「SaveOurSpace」と共同で「We Need Culture」プロジェクトを始動した。https://savethecinema.org/
★3──artscape Artwords「社会彫刻」を参照。https://artscape.jp/artword/index.php/社会彫刻
★4──元従業員たちが立ち上げたウェブサイト「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」https://uwvah2020.wixsite.com/mysite
浅井隆代表による「謝罪と今後の対応について」https://www.uplink.co.jp/news/2020/53509
★5──「アップリンク・浅井隆氏によるパワハラ問題について」https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid/updates/29773
★6──「京都・出町柳エリアの商店街に新しいカルチャー発信地を。映画×本屋×カフェの融合ビル『出町座』」https://motion-gallery.net/projects/demachiza/