フォーカス
第4回 21世紀ミュージアム・サミット「100人で語る美術館の未来」レビュー
菅野幸子(国際交流基金情報センター)
2010年03月15日号
2月27日(土)から28日(日)の2日間にわたり、湘南国際村センターを会場に第4回21世紀ミュージアム・サミットが開催された。今回の開催にあたっての主催者側の意図は「人々が本当に求めている美術館体験は何か」という問いから企画されたものだが、同時に「美術館は社会のために、人々のために何ができるのか」という問いが秘められている。この問いは、日本の美術館セクターに課せられた問いだけではなく、世界的各地で美術館の再編や拡張が行なわれている現在、世界の美術館にとっても大きな課題でもある。
そこで、こうした課題を受けて、第4回目のミュージアム・サミットは、「100人で語る美術館の未来」と題して開催された。このサミットは、2004年3月より隔年開催され、過去3回は、世界のなだたるミュージアムの館長が集まる文字通りのサミット形式であったのが、今回は、これまでとはやり方を一変し、むしろ参加者たちが積極的に話し合うことに重点がシフトした。人々がオープンに会話を行ない、自由にネットワークを築くことのできる「カフェ」のような空間で、お互いの想いを共有し、知識・知恵を創発する話し合いできる、ワールド・カフェ・スタイルは、最初は違和感があったが、多くの人と話し合うことができるこのスタイルはなかなか良かったのではなかと思う。
こういった工夫のためか、80人定員に対して倍以上の180人もの応募があったという。最終的には、約130名が参加した。
あさっての美術館
1日目は、哲学者の鷲田清一の「あさっての美術館」と題された基調講演から始まった。「あさって」は、明日の続きではなく、「まだ見えないけど、もう見えるかなぁ」という感覚であり、日比野克彦の「明後日新聞社」からヒントを得た言葉である。アートとは、社会のニーズの先にある感覚を表現するものであり、「あさって」は明日を越えたところにある。アーティストは、明日に入りきらないものも見る存在であり、あさっての感覚を体言している存在なのだ。
建築家、青木淳の著作『原っぱと遊園地』によれば、「原っぱ」は空き地で、なにもなく、自分たちでゲームやルールをつくって遊ぶところ。これが「あさっての活動」であり、行為と行為がつながる空間で、ここから都市が生まれる。これが街づくりの原点で、未来の社会性、共同性のあり方を提示しているという。
それゆえ、アーティストの活動は、新しい社会性をもたらす可能性を秘めており、あさっての方向を示すものであり、これが「あさっての美術館」の意味するところだという。