フォーカス
芸術区の行方、そしてアートと場所の関係
多田麻美
2010年04月01日号
アニメがつなぐ世界
前者が外国人が数多く参加しつつも、北京という場を強く感じさせた展覧であったのに比べ、むしろメディアのインターナショナルな効能を感じたのが、昨年末にCBDの東寄りに位置する今日美術館で行なわれた「生化─虚実之間──動漫美学双年展 Enliven-in Between realities and fiction─animamix Biennial 2009-2010」だった。台北、上海、北京、広州の四都市をめぐる巡回展で、中心の概念となる動漫美学(animamix)とは、アニメーション(animation)とコミックス(comics)の合成語。動漫美学の芸術とは、アニメや漫画そのものではなく、それらのもつ審美観が生かされた各種作品を指し、2004年に陸蓉之(ルー・ロンジー)によって台湾で初めて提唱されたという。
会場には、高孝午(ガオ・シアオウー)や頼純純(ライ・チュンチュン)、UNMASK、石家豪(シー・ジアハオ)などの作品が並び、日本からも近藤聡乃、上野陽介、松浦浩之などの作品が出品されていた。もっとも、展示作品の大半は中国本土のもので、Animamixという概念の境界についてもかなり不明瞭さが残ったものの、アニメや漫画をめぐる体験を共有する作家らによる、一見極めて雑多に見える作品群を通じて、村上隆や奈良美智らに代表されるものと相通じる表現が東アジアで広がり見せている様子が概観でき、参考になった。
会場の今日美術館は、北京で屈指の規模を誇る私設美術館。国際的近代都市としての北京の特質がもっとも際立って感じられるCBD圏内にあり、若い世代のホワイトカラーのベッドタウンとも隣接した場所にある。北京の新興マンションが林立する場所に、こういったアニメ関連の展覧会はしっくりとなじんでおり、地元の人らしき子ども連れの参観者も多数訪れていた。
ちなみに、よりデザイン的要素の強いものではあるが、独自のキャラクターの制作と関連して興味深かったのは、中国で伝統画を学んだ後、日本で日本画やデザインを学んだ経験をもつ作家、熊文韻(シオン・ウェンユン)による「空空(コンコン)」展だ。
会場となったのは北京の東郊外に広がる宋荘芸術区内に位置する洗練されたデザインの建物。だが会場の周辺一帯は、最近でこそ画廊やスーパーなどが登場したものの、そもそも農村地区であるため、緑のない北京の冬は、荒涼とした感が否めない。熊文韻は四川出身で、チベットの大地に深い思い入れを抱く作家だが、宋荘の空白に満ちた広大な環境は、ここで繁殖し、独自の宇宙を築く「空空」というキャラクターがもつ、エイリアンめいていながら、人の生命の根源と直結した感じとよく呼応しあっていた。
以上で述べてきたように、北京という都市も、北京の現代アートも、つねに現在形でダイナミックに動いている。今後も、その二つが絶妙な接点を得た展覧、北京の多様性と歴史的背景が存分に生かされた試みが北京で展開されることが、楽しみでならない。