フォーカス
静かな芸術闘争
太田佳代子
2011年03月01日号
アイ・ウェイウェイ村
草場地(ツァオチャンディ)は北京市北東部の798地区からさらに北東2キロ先に位置する。北京空港からは車で約20分、一体こんなところに芸術村があるのかと思うほど茫漠とした風景が続くが、突如、高速道路脇に懐かしい風景が現われる。グレーのレンガで組まれた四角い家々の町並みが広がっているのだ。ここは1999年、当時まだ無名の艾未未(アイ・ウェイウェイ)が仲間のアーティストやギャラリストとともに「入植」したところから始まった。この時につくられた建物はすべてアイの設計によるが、北京の古い町並みであるフートンの図面を手に入れ、スタジオやギャラリーに必要なサイズに合わせながら、シンプルで温かみのある建築スタイルをなるべく忠実に再現したものだという。褐色レンガより質の高いグレーレンガの、一つひとつ微妙に異なる風合いを精密に組み合わせていくのが、アイのこだわったことのひとつだという。
十年以上経ったいま、草場地(ツァオチャンディ)芸術村には300を超えるアート関係組織が集まっている。事実上、798地区に続く北京のアートシーンに成長し、一週末で5,000人以上を動員することもある。アイが最初に開設したChina Art Archives and Warehouse、スイスのUrs Meile画廊、Three Shadows Photography Art Center、Platform China、Pekin Fine Arts Galleryほか、すべて回るには1日たっぷり必要なほどのギャラリーが集まっているのだが、この芸術村にも昨年、立ち退き宣告が下された。
宣告したのは村の自治体。ここを一掃して政府事業、商業開発、文化開発を展開する、というのが名目である。これに対し、中国だけでなく在北京のドイツ大使館、フランス大使館をはじめ多数の人々が保存の嘆願書に署名し、芸術村保存への連帯意識が高まった。その後、村より上の管轄当局が村の決定を否定したものの、保留状態のまま今日に至っている。
なす術は特にない。ただ地道に本来の活動を続け、事態が好転するのを待つしかない。アート界がますます国際化し、中国アート界が成長してゆくこと自体に望みを託しながら。