フォーカス

社会の声を反映するアメリカの美術展──今アートを支える力とは?

梁瀬薫

2011年04月01日号

 アート・ワールドの影の立役者たちが一同に顔を見せる日。

2010年度国際美術評論家連盟主催 AICAアワード

 美術界のアカデミー賞と呼ばれる国際美術評論家連盟全米支部による年次AICAアワード2010年度(2009年6月から2010年6月)の授賞式が3月14日ニューヨークのクーパー・ユニオンで開催された。同アワードは毎年全米中の美術館、画廊、オルタナティブ・スペースなどで企画された展覧会のなかから、約400名の評論家連盟会員の投票によって選ばれる。特徴的なのは、展覧会の規模や入場者数、市場の動向云々ではなく、展覧会のコンセプトと内容自体が問われることだ。作品の一点一点やアーティストの評価だけでなく、公共性、社会背景、時代と歴史の必要性が考慮される。つまり展覧会を実質的にオーガナイズする美術館、そして学芸員の力量が評価されるのである。普段は裏方に徹する学芸員がこの日の主役だ。近年マイアミ、バーゼルなどで開催されている華やかなアート・フェア(=見本市)が、あたかもアートの動向のように捉えられているが、フェアは祭典であり、金融・経済事情によってのみ評価される一過性のものだ。歴史に残る展覧会は人々の信念と思想がつくり出した文化を担う。
 本年は美術評論分野で最も貢献した者に贈られる特別賞が、アート・イン・アメリカ誌の編集者として34年間勤めた美術評論家エリザベス・ベーカー女史に贈られたほか、マリーナ・アブラノヴィッチ、ティノ・セガル、蔡国強ら現代アーティストからアンリ・マティス、オットー・ディックス、ポップアートにおける女性作家、パフォーマンスアートの歴史、バウハウスまで広範囲におよぶ、12分野から学芸員とアーティストに26の賞が贈られた。ゲスト・プレゼンターにはクリスト、チャック・クローズ、マーティン・プーリヤ─らが参加。ボランティア主体でプロデュースされたセレモニーはビエンナーレの前夜祭のような華やかさはないものの、入場制限をするほどの盛況で、アメリカのアートの底力を見せつけられた。また式典最中に評議委員により東北関東震災への哀悼の辞が述べられた。

美術評論家特別賞に輝いたエリザベス・ベーカー(左)と国際美術評論家連盟全米支部代表のマレック・バートリク[photo by Jacques De Mélo]

  • 社会の声を反映するアメリカの美術展──今アートを支える力とは?