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 国際美術評論家連盟日本大会
   トランジション――変貌する社会と美術

もともと日本には50年代から美術評論家連盟が存在していたが、一方でユネスコを中心として発展した国際美術評論家連盟なる国際組織も1950年代には成立していた。そして日本独自の評論家連盟が90年代に入ってから結果的に、この国際美術評論家連盟の支部の立場をとるようになった。国際美術評論家連盟はフランス語「Association International des Critiques d'Art 」 とよばれているので、この頭文字をとってAICA(アイカ)と通称される。

AICA "TRANSITION" (チラシ)

このAICAは毎年世界のどこかの国で総会を開いているが、それを日本に誘致しようという発案をしたのは、3年前、当時日本美術評論家連盟の会長だった本間正義氏だった。すでに70年代に一度誘致の話があり、途中でとん挫したという経緯があるので、今度は実現させたいという関係者の意欲があった。しかし一方で今度は途中で挫折することはできないという背水の陣の思いもあった。

この日本総会の事務局をやってほしいという話が来たのは、95年春のことだ。出発の時点では会場の提供者のあてもなく、一銭の資金もなく、はたして実現できるのだろうかという懸念を多くの人が持っていたと思う。その時点ではおよそ150人の来日参加者とそれを受け入れるための4000万円余の資金が必要だということが試算された。しかし私はそれより前に国際美術館会議(CIMAM)の国際会議をファンドレージングしながら実施した経験があり、このためにおよそどのような仕事が生じ、どのような困難とどのような可能性があるかが、体験的にわかっていたので、その作業がいかに大変かということについて恐れを抱きつつもこれを引き受けた。

総会誘致を申し出るために1995年9月には本間さんとマカオの総会に出て誘致の意思表明し、その後のレンヌ、および北アイルランドの総会に出て、少しずつ進捗状況を報告し、テーマについて打診し、参加者の数を予測し、準備を進行した。日本においては寄付金と会場提供者を捜し続けたが、当初もくろんだように地方自治体で引き受けてくれるところはついに出てこなかった。そこで97年の後半には、もう大口のスポンサーをあてにすることはできないということに腹を決めて、想定予算を縮小し、小口の寄付を積み上げ、およそ2500万円近い実行費用を作り出すことを目標とした。結果的には多数の理解者の支持が集まり、これが実現できた。
AICAシンポジウム会場

シンポジウム会場


会議の内容は「トランジション――変貌する社会と美術」というテーマで、今もっとも重要だと思 われる問題をアジアの中の日本という立場から捉えることにした。そこでこの大タイトルの下に「メモリー アンド ヴィジョン――伝統から新しいアイデンティティーへ」「モニュメント アンドイコン――社会に於ける美術の新しい方向性」「インターネットに向かって――新しいテクノロジーと美術の非物質化」という三つのサブテーマを設け、 3日間公開で発表・議論をすることになった。また4日目には、これらのテーマの締めくくりとして、一般の人にも広く声をかけ、より大きなシンポジウムを 開催することにした。
シンポジウム会場

シンポジウム会場


発表者は、招待されたスピーカーとAICA会員とがいたが、もっとも多くの発表が集中したのはアイデンティティー問題につながる第一のテーマだった。これを見ると今、文化・芸術において、いかにアイデンティティー問題が多くの関心を集めているかがわかるといえるだろう。もっともどのテーマについても、発表はそれぞれの立場からの発言であり、一つの結論に収斂するという具合にはいかなかったが、それはまた現在の世界の文化社会の状況を反映しているともいえる。

5日間の東京滞在を終えて、参加者の大半は京都へ移り、またさらに数十人が直島のベネッセの美術館を訪問した。参加者は海外から102人を数えたが、これだけ大勢の海外の文化ジャーナリスト(とあえて呼ぼう)が日本の伝統と現代の文化・芸術を見、またアジアの立場からの意見にも多数遭遇して、意見交換を行なえたということは貴重な機会だった。

 

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国際美術評論家連盟(AICA/アイカ)
世界各国の美術評論家、ジャーナリスト、美術関係者、思想家約3800名から構成されるユネスコ関連組織。毎年世界各地で会議を開催し、美術、批評、ジャーナリズムについての問題点や、美術を通じての社会貢献について議論し、情報交換をおこなう。
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国際会議 &シンポジウム
トランジション――変貌する社会と美術
会場:スパイラルホール
会期:1998年9月28日〜10月1日
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1998
ターナー賞

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