3月に現代美術製作所でアートとテレビにまつわるイヴェントを自主企画することになって多忙な毎日だが、その他にも、3月はART とテレビに関する企画が目白押しである。Command Nが主催する「Akihabara TV」やファブリス・イベールのプロジェクトである「SPIRAL TV」、そしてヨーロッパのTV向けアートプログラムを紹介する「ART in Living Room」とそれぞれの企画や放映内容が多岐にわたるので、どれも見逃せないものばかりである。
なぜこの時期に同様の企画が集中したのかは偶然かも知れないし、磁石のようにお互い引き合ったともいえる。それにしても、なぜ今頃になってアートとテレビの関係が注目されたのだろうか。テレビというメディアが生まれてすでに半世紀が過ぎ、どこの家庭にもテレビが置かれている現状である。テレビがこれほど身近な存在にもかかわらず、アートが身近な存在とは言い難い。そして両者の関係があまりにも希薄であるといっていいだろう。そんな関係を修復する良い時期なのだろう。きっと。
ヨーロッパでは、メディアは啓蒙として使われることが多い。したがって、視聴率に翻弄される番組制作は行なわない方針であるし、質の高いものを提供する義務があるのである。イギリスでは、ターナー賞の生中継が民放のゴールデンタイムに行なわれているように、テレビによるアートの積極的な啓蒙活動が存在する。今回「ART in Living Room」で紹介する「di it」と「arkipelag TV」は、どちらも実際のテレビで流れていた番組である。しかも、CMのように1〜2分の短い番組だから、番組として気構えする以前に眼前に飛び込んできてしまうのだ。そんな刺激的なテレビに出会いたい。そんな3月になるのではないか。
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秋葉原の電気街が街ぐるみで参加したアートイヴェント「秋葉原TV」は世界中の若手作家によるオリジナル作品を発表し、注目を集めた。街の商店に並ぶ商品としてのモニターやテレビ、コンピュータなどの既存の機器をそのまま使って、ヴィデオ作品を上映した。
これは、秋葉原というさまざまなハードウェアが立ち並ぶ商店街という立地条件のなかで、一般の買い物客と混じってアートを鑑賞するという一風変わった体験ができるものだ。その意味では、アートと場の関係性によって作品を作り上げるサイト・スペシフィックのプロジェクトというより、もっと公共性のあるパブリックアートの役割が強い。特に商店に勤務する人々にとっては、自分の仕事場が文化的な関わりを持つことを知って、新鮮な喜びだったに違いない。それは、アーティストから秋葉原商店街に贈られた福利厚生ともいえるメセナ活動だといえるかもしれない。メセナが決して企業からアーティストへ支援するばかりではなく、相互関係で成り立っているということを実証するプロジェクトになったとも言える。
こうして秋葉原近辺の地域社会に影響力を与えたことでコマンドN(このイヴェントの主催者。インディペンデント・オーガニゼーション)は、近隣区域ばかりではなく、もっと広い範囲の知名度とその活動の重要性を提示することができた。今後も組織的な活動で社会的な影響力を持つリレイティヴ・アートを実践していってもらいたいものだ。
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SPIRAL TV
ファブリス・イベール(パリ)のプロデュースによるアートイヴェント
会場:スパイラルガーデン(スパイラル1階)
会期:1999年3月10日〜28日
問い合わせ:03-3498-1171
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荒木経惟とヴァネッサ・ビークロフトのフォトセッションで幕開けする“SPIRAL TV"は、フランス人作家、 ファブリス・イベールのプロデュースで行なわれるプロジェクト。これは、前回のヴェニス(1997年の ヴェネツィア・ビエンナーレ)でフランス館を金獅子賞に導いた作品"Odor TV"の焼き直しである。この作品で、ヴェニスの歴史始まって以来、初めてパビリオンをテレビ局にしてしまったのである。メディアをファインアートに明確に取り込んだ、最も積極的なアプローチだった。
さて、今回の東京版では、どのような展開が行なわれるのか?
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ヴァネッサ・ビークロフト「ショー」
1998 グッゲンハイム美術館
Photo: Mario Sorrenti
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ART in Living Room
モダン家具を取り入れた会場でみるヨーロッパのTVアートプログラム
会場:現代美術製作所 墨田区墨田1-15-3
会期:1999年3月20日、21日、22日
問い合わせ:03-5630-3216
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かねてより、デザインとファインアートがもっと近付くべきだと考えていたので、この試みによって、日本のインテリアや家具デザイナ−にも刺激的なイヴェントになるよう願うし、今後のクロスオーバーに拍車が駆ければと思っている。もっともっとアートはみんなの生活に身近なのだから。 さて、このイヴェントのもう1つの目玉は、会場にオリジナルテレビ局「ResisTV」をセットしてしまうことである。それなら、 「SPIRAL TV」もやっているといわれそうだが、こちらはもっと過激なしくみだ。下町に向けて海賊放送をしてしまうもの。といっても2chに合わせてFM電波で飛ばすし、うまくすると会場の近隣者であれば、自分のお茶の間で「ResisTV」が放つオリジナル番組を観ることができるのである。お茶の間(会場)とお茶の間(下町)をアートでリンクしてしまう試みである。 「RsisTV」では、持ち込み作品や会場でのパフォーマーを随時募集している。ヨーロッパの番組より刺激的な番組をぜひ持ち込んでほしい。
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NEW LIFE
スウェーデンとデンマークからの11人の作家ほか
会場:現代美術製作所、小山登美夫ギャラリー、スウェーデン大使館展示ホール、
ナガミネプロジェクツ、ナディフ、ヒルサイドギャラリー、ミヅマアートギャラリー
P-House
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会期:1999年2月12日〜3月13 日
問い合わせ:03-5685-0532
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全員のアーティストが来日した北欧展は、スウェーデン大使館での盛大なオープンニングパーティによって大成功を納めた。多くの作家が初めての来日とあって、新鮮な面持ちで最果ての国、ニッポンを堪能してしていたようである。一方、観客のほうも「北欧のアートっていったいどんなの」と興味津々だったに違いない。にわかに北欧が注目されたが、それだけ力のある作家がいるからだ。今回は、スウェーデンとデンマークだけだったが、今年の北欧の激冬をよそに、極北のアートシーンはものすごく熱いことを示すことができたといえるだろう。
会場が8カ所におよんで開催されたこともあって、オリエンテーリングのように各会場を廻るというのも楽しい催しになった。この企画によって、普段とは異なる観客層が訪れたことで、会場側にとってもうれしい反響となった。こうして自主企画ばかりではなく、インディペンデント・キュレーターに会場を解放し、お互いに刺激しあったことで、さまざまな可能性が広がったといえるだろう。今後もユニークなプロジェクトにフレキシブルな対応をして、積極的にゲスト・キュレイターの企画を実現してほしいものだ。行政の力によってがんじがらめでマンモスになってしまった美術館とは、まったく違う立場のオルタナティブスペース(コマーシャルギャラリーも含む)が元気がいいのは確かなのだから。
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The Monsters of Rock Tour
コオロギの奏でる音で行なわれたライブナイト
会場:DELUXE 港区麻布十番1-3-3
日時:1999年2月7日 7pm〜
問い合わせ:03-5685-0532
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NEWLIFE展の特別イヴェントとして行なわれたヘンリク・ハカンソンによるミュージック・パフォーマンス。パフォーマンスといっても主に演奏はコオロギなのだ。会場では、どの音色も逃すまいとセットされた数多くのマイクや立派な音響システム、また華やかな照明効果などで状況をさらに盛り上げていた。それにしても真冬に関わらず、数百匹を超えるコオロギ(爬虫類の餌として飼育されているもの)が、仮設のステージでしっかり羽を震わせて演奏しているところは、自分たちがスポットライトにあたっていることをまるで知ってるようである。
ハカンソンは、このパフォーマンスを1996年にニューヨークのトーマス・ノルダンシュタット・ギャラリーでも行なっている。“The Monsters of Rock Tour”というタイトルが付けられたこのコンサートは、そのままズバリ、日本への遠征ロックツアーが敢行されたというわけだ。 その証拠にアーティストは、コオロギが本物のロックミュージシャンであると信じているところがある。ハカンソンは、バンド仲間のコオロギ君たちといっしょにギグし、インプロヴィゼイションの極みを目指して真剣そのものである。複雑に幾重にも音色が重なるコオロギの羽音を拾っては、ミキシングを繰り返しているのである。まるで、終わりを知らないコンサートのように熱いロックナイトは、続いたのであった。
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曽根裕 アルペン・アタック展
会場:草月ギャラリー 港区赤坂7-2-21
会期:1999年1月27日〜2月17日
問い合わせ:03-3408-9112
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NEW LIFE展にも参加していた 曽根裕が、同時期に草月ギャラリーで個展を開いた。それは、アトリエ公開ともいえる作家のアイデアノートをそのまま展示したものだった。実際に「アトリエにあるものをギャラリーに持ち込んだ」といってる作家だったが、子供たちがそばでお絵描きして遊んでいるドローイングも展示してリアリティを追求していた。
この展覧会のタイトルである「アルペン・アタック」が示すものは、今年の“ツール・ド・フランス”に挑戦する曽根のプレゼンテーションでもある。作家の代表作でもある一輪車を繋いだ作品「19番目の彼女の足」(1993)を新たに改造して、本気で世界最高峰の自転車競技にチャレンジしようとしているのだ。約一カ月にわたるレースのなかで最大の難関であるアルプス越えに真っ向から挑もうとしている作家の意気込みが、今回の展覧会のメインテーマである。 最終日に行なわれた曽根のトークに北欧展の参加アーティスト、エリン・ヴィクストロムが友情出演した。彼女は、ミュンスター彫刻プロジェクトで、漕ぐと逆走する自転車の作品で話題になった作家である。曽根に刺激されたのか、この逆走する自転車を引っさげて彼女も“ツール・ド・フランス”にチャレンジするということだ。ただし、彼女の場合は、ゴールからの出発になる。ふたりともフランスでの熱い夏に向けて情熱を語り、エールの交換を行なった。 |
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曽根裕「Her 19th Foot」1995
スウェーデン、マルメにて
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朝岡茜写真展
会場:ツァイト・フォト・サロン
会期:1999年2月8日〜27日
問い合わせ:03-3246-1370
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SHAKURI/TRAFFIC山崎広太
会場:世田谷パブリックシアター
会期:1999年2月13日、14日
問い合わせ:03-3408-7656
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時代の体温 Art/Domestic
出品作家:奈良美智、多田正美、東恩納裕一、田中敦子、大木裕之、根本敬、大竹伸朗
会場:世田谷美術館 世田谷区砧公園1-2
会期:1999年2月11日〜3月22日
問い合わせ:03-3415-6011
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