logo
Recommendation
兵庫  山本淳夫
..
 

exhibition桑田道夫展とギャラリー・ラ・フェニーチェ

..
桑田道夫「紙A」1999
桑田道夫「紙A」1999
石膏、アクリル、紙
182.0×180.0cm

桑田道夫「ドラム缶」1999
桑田道夫「ドラム缶」1999
石膏、アクリル、ドラム缶 182.0×180.0cm

桑田道夫「方舟」1999
桑田道夫「方舟」1999
木材(インスタレーション)

 2000年1月の関西では、ギャラリーすずきの渡辺信明、アートスペース虹の堀尾貞治、ギャラリーココの日下部一司(以上京都)、信濃橋画廊とMEM.incで同時開催された松井智恵など(大阪)中堅実力派の発表が目白押しだった。新展開をみせた渡辺、絶好調の堀尾、日下部の距離感のあるユーモア、それに松井の新作ドローイングはやはり面白い。ただしこれらについては、私でなくても誰かが記述されると思うので、いい仕事であるにもかかわらずスポットが当たりにくいものを、あえてピック・アップしてみたいと思う。
 1916年生まれというから、桑田道夫は80歳を優に過ぎている。いわばベテラン中のベテランだが、関西でもさほど広く知られた存在だとはいい難い。それは、彼が団体展を主な発表の場としてきたために、いわゆる現代美術ウォッチャーの目に入りづらかったことも原因のひとつだと思われる。私自身、数年前のラ・フェニーチェの個展で初めてその存在を知った。
 その時の印象は、とにかく80を過ぎた老人の仕事とはとても思えない、というものだった。今回もそれは基本的に同様で、ベニヤ板を2枚あわせた18cm角の画面に、真っ二つにしたドラム缶が貼り付けてあったり、幾重にも貼り重ねられた紙が数十センチもの厚さに達していたりする。さぞかし重たそうで搬入がたいへんだろうと、まず思ってしまうのは職業病か。「重さ」はしばしば意味深なポーズだけであったり、「停滞」や「鈍重」に繋がる危険性を孕んでいるものだが、造形思考のキップのよさが、それを阻んでいる。平面作品以外に、地下のスペースには廃材を組み合わせた、巨大なテーブルをひっくり返したようなインスタレーションが設置されていた。桑田の作品集をひもといてみると、ある意味で理想的な年輪の重ね方のように思えた。周囲を気にせず「やりたいことだけをやる」という自由さが、年とともに増しているような…
ちなみに、本展をもってギャラリー・ラ・フェニーチェは活動を休止するという。同ギャラリーといえば、何といってもその独特な空間が魅力で、印象に残る展覧会も多い。特に数年前の、北辻良央による神がかり的なインスタレーションは、個人的には文句なしに同年ベスト3にはいるものであった。再開を期待する次第である。
..
会場:Art Gallery LA FENICE(ラ・フェニーチェ)
会期:2000年1月11日(火)〜31日(月) 11:00〜18:00・日祝休
問い合わせ先:Art Gallery LA FENICE(ラ・フェニーチェ)
       〒542-0086大阪市中央区西心斎橋1-6-21
問い合わせ:Tel.06-6244-6160 Fax. 06-6244-6152

top

exhibition石元泰博写真展−伝真言院曼荼羅−

..
石元泰博《伝真言院曼荼羅 胎蔵界 中台八葉院毘盧遮那如来》

石元泰博《伝真言院曼荼羅 胎蔵界 中台八葉院毘盧遮那如来》
1973/1978
写真パネル 国立国際美術館蔵

 実は、本展については事前にそれほどマークしていなかった。所蔵品展であるせいか、さほど大々的に広報されていたような印象もないし、カタログも制作されていない。正直いうと、おとなりの大阪府立国際児童文学館に調査に行ったついでに「そういえば」という感じで、ふらっと立ち寄った次第である。
 伝真言院曼荼羅とは、9世紀後半に制作された、京都の教王護国寺(東寺)に伝わる密教絵画の名品である。胎蔵界、金剛界の2幅よりなる、いわゆる両界曼荼羅で、それぞれ183×154cmの画面内に、仏典で定められた構造に従って諸尊がびっしりと描きこまれている。石元は要するにくまなく接写しているわけだが、これが実に面白い。ほんの3B四方程度の面積に描かれた諸仏が、数十センチ角の大きさの写真パネルに引き伸ばされるのをみると、今まで気づかなかった原画の艶めかしさ、テンションの高さに驚かされる。みているうちに、単なる標本接写ではなく、作家がかなり感覚的に対象に接していることがわかってくる。石元にナビゲートされて、トリミングの面白さや拡大された絹目のほころびの物質性にも意識が飛び始め、思いがけず曼荼羅の世界を満喫してしまった。なるほど、写真は視線の誘導装置でもあるわけだ。
 なお、このシリーズが本格的に公開されるのは約15年ぶりだという。写真パネルとして現存するのはこの1エディションのみであり、幸い驚くほど保存状態が良い。なんでも実物の原画は修復時に色が沈んでしまったそうで、保存上の配慮もあり、我々が明るい光源のもとでこの作品を鑑賞できる機会は、まずあり得ないだろう。3,000点にのぼるネガフィルムも既に変色してしまっているといい、実にこの作品を通してのみ、曼荼羅のかつての生々しい迫力を我々は追体験できるのかもしれない。複数性とモノタイプ性の間で揺れ動く写真というメディア、何がオリジナルかという問題、様々なことに思いを馳せる機会でもあった。
..
会場:国立国際美術館
会期:1999年12月16日(木)〜2月6日(日) 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週水曜日と年末年始(12月28日〜1月4日)
観覧料:大人420(210)円/大学・高校生130(70)円/中学・小学生70(40)円 
    ( )内は20名以上の団体料金 無料観覧日:第2・第4土曜日

top

report学芸員レポート[芦屋市立美術博物館]

..
 いま芦屋では、戦争が勃発している。とはいっても、別に物騒なことではなくて、美味しい戦争なのである。人はそれを「芦屋ラーメン戦争」と呼ぶ。
 阪神間を東西に貫く国道2号線の、西宮市内の夙川近辺から芦屋市内にかけて、ここ1年ばかりの間に新しいラーメン屋さんが続々と進出しつつあるのだ。芦屋市立美術博物館は市内でも南のはずれ、交通の便がすこぶる悪い場所にあり、周囲にはほとんど飲食店がない。昼食時には、スタッフは車に乗りあわせてランチ・ツアーを断固敢行するのだが、このところ選択肢が急増して嬉しい次第なのである。
古くからあるのは「芦屋ラーメン 庵」で、いつしか行列のできる店になってしまった。でも、個人的には余り評価していない。悪くはないけど、行列するほどのもんかいな、というのが正直な感想である。どこぞのアホな評論家が情報誌でホメたんちゃうか、と勘繰ってしまう。
 道を挟んで向いにあるのが「ふうりんラーメン」。白菜がたっぷり入っているのが特徴で、スープはあっさり系。店内の空間がちょっと殺伐としているのが残念だが、店長さんとおぼしき方の、愛想と手際の良さに好感を持てる。こってり系がお好きな方には豚の角煮ラーメンもおすすめ。
 「ふうりん」の並び、ちょっと西に行ったところに、龍がからまった一際ド派手な看板が眼をひくのが「日の丸軒ラーメン」。かなりの大箱にもかかわらず、いつ行っても満員御礼である。店員さんも若くて威勢が良く(よく仕込まれている)、店内にはビートの効いた洋楽が流れている。確かに、豚骨系のスープは美味しくて、メニューも豊富。ただし、いかにも広告代理店系の演出が、個人的にちょっと…
 現時点でのイチ押しは、激戦区の国道沿いから少しはずれた場所にある。JR芦屋南口前の通りを、東に行った突き当たりにある「ぼんてん」である。カウンター席しかない小さな餃子専門店で、メニューは餃子、ラーメン、ごはんの3種類のみ。経験的に、こういう店は臭い。餃子はみそだれをベースに好みで調合できる。問題のラーメンは800円と高価なのだが、ちょっと変わっていて、テール・スープのなかに平打ちの玉子麺が入っているのである。寒い日でも、こいつを飲み干せば額から玉のような汗が滴り落ちる。
 全国のラーメン愛好家の皆さま。ぜひとも最前線でくりひろげられる死闘を目撃、いや味わうついでに、芦屋市立美術博物館にお立ち寄りくださいませ。小生を訪ねて来て下さった方にのみ、市内のそば屋とうどん屋のオススメも、こっそりお教えいたしましょう。

top

福島
愛知
兵庫
福岡

home | art words | archive
copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2000.