5月に神戸で行われた「Dialog in the Dark」(5月2日〜7日、ジーベックホール)という、完全な暗闇の世界を体験するプロジェクトに参加したときのこと。私が最も印象に残ったのは、他人の存在や助けといった、自分を取り巻く人間関係の有難さだった(まわりの声に体温を感じた)。暗闇のプロである、全盲のアテンドの方のすばらしいナビゲーション(私たちにはまったく見えない世界が、アテンドの方にははっきりと「見えている」と痛切に実感!)に身も心もお任せにできてしまうと闇の恐怖感は薄れ、見えないはずの世界が、視覚以外の五感を通じて見えてくるような気持ちになる(30分は結構短い)。
森や街を抜けて、コースの最後に、私が一番期待していた闇のバーにたどり着いたときのこと。まず、ワインの香りでバーに近づいたと気づいた。これは私がたんに酒好きというばかりでなく、嗅覚があきらかに敏感になっているようだった。視覚以外の全感覚を総動員する体験は、人間関係や美的体験の新たな可能性を示唆してくれたといえる。もちろん、バーでは迷わずワインを注文しました。