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福島 木戸英行
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exhibition太田三郎:存在と日常

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太田三郎:存在と日常
太田三郎
「Date Stamps 4 August 1998 to
December 1998」
1998年

 「切手の作家」として知られる太田三郎。CCGAで6月10日から開催する本展は、そんな彼のワンマンショーとしては過去最大規模となる展覧会である。テーマは、これまでの太田の切手作品すべてに通奏低音のように流れる「存在と日常」。1985年に制作を始めて以来、今日に至るまでライフワークとして継続している「Date Stamps」シリーズから、今展が初めての発表となる最新作まで、計9シリーズによる構成となる。
 太田三郎の作品は、植物の種子をもちいた「Seed Project」にせよ、中国残留孤児のポートレートをもちいた「Post War 50 私は誰ですか」にせよ、誰でもが日常的に目にし、親しみを感じている切手の形態をとるため、とくに知識や経験をもたない者でも容易にそれぞれの思いを重ねあわすことが可能であり、そこが魅力の一つになっている。
 もっとも、太田作品の特質は親しみやすさだけに止まるものではない。切手の形態や郵便システムをもちいることに、太田は、自分や他者の存在を確認する存在証明としての意味を重ねている。たとえば「Date Stamps」は、毎日切手を最寄の郵便局に持参し、消印を押してもらい、もとの100枚綴りのシート上に日付順に配列する、という作品だが、切手1枚1枚に押された消印の郵便局名と押印日時が、作者が確かにその日その場所に存在したことを証言しているのである。
 「Date Stamps」は現在もなお継続中で、すでにシート数にして40枚以上にのぼっている。この作品のために15年間にわたって毎日郵便局に通いつづけた作家の持続力には驚かされるが、しかしそれ以上に、一人の人間が生きてきた15年間の足跡がたかだか40枚の切手シートに収まってしまう事実は、観る者に時間や人間の存在に関わる本質的な問いを発している。
 この郵便局通いをめぐって、太田三郎という作家を象徴するようなエピソードがある。太田は当初、これを日曜日には本局にまで出向き実行していた。それこそ雨が降ろうが病気で寝込もうが、1日も欠かかさずである。ところが、結婚して家庭生活を営むようになり、この決まりが家族に犠牲を強いることに気づいて以後は、通常の家庭生活に支障をきたさない範囲で、というように方針を改めたそうである。こうした考え方を甘さと断じてしまうのは簡単であるし、最近では、執拗に切手にこだわりつづける太田の姿勢にある種のもどかしさを感じるのか、それらを単なる自己模倣と決めつけるような発言や展評も見受けられる。たしかに、切手というわれわれの誰もが見慣れた素材を使い、慎ましいとさえ言っていいような小さな画面を淡々と作りつづける、あるいは、郵便局へ通うことを日課にするといった太田の手法は、自らのコンセプトを声高に主張したり、観る者の感覚に直接的に訴えかけるようなものではけっしてない。しかし、そのような突出したところのない無機質な繰り返しを日常と呼ぶのなら、その日常こそが太田がもっとも重視していることであるし、小市民的と言うのなら、太田は芸術的な不健全さよりは小市民的な健全さをあえて選び取ろうとしていることに注目すべきである。
 太田の作品に接するとき、ぼくが思い浮かべるのは、食卓に並んだ、まだ箸をつける前の朝食の光景や、買ってきたばかりで封を切る前のCDといった、日常生活で時折経験するほんの小さな清々しさにも似た印象だ。そして、この日常の中にこそ、われわれ自身の存在の感覚や世界認識といったきわめて普遍的な問題があらわれてくることを、彼の作品は教えてくれるのだと思う。

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太田三郎:存在と日常会場:CCGA現代グラフィックアートセンター
  福島県須賀川市塩田宮田1
会期:2000年6月10日(土)〜9月17日(日)
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:45まで)
入場料:一般300円/学生200円/小学生以下、65才以上、及び身体障害者無料
主催:CCGA現代グラフィックアートセンター
問い合わせ先:0248-79-4811

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report学芸員レポート[CCGA現代グラフィックアートセンター]

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 「太田三郎:存在と日常」展の出品作品に、代表作の一つである「Seed Project」の切手を貼った葉書100通を、太田さんが住む岡山県津山市からCCGA のある福島県須賀川市まで郵送し、種子を作品から取り出して植木鉢に蒔き、その植木鉢を展示する「Seed Project Tsuyama to Sukagawa」と題した作品がある。計画には関東以西にしか分布しないシロバナタンポポが選ばれ、4月下旬に太田さんが仕事場近くで採取した種を、現在CCGAで鉢植えにして栽培中である。
 ところが1ヶ月たってもこれがいっこうに発芽しない。事前の栽培実験では約2週間で発芽し、展覧会オープン頃にはそこそこ成長しているはずだったのだが‥‥。不安になって太田さんに電話すると、「大丈夫ですよ。時期がくればきっと芽が出ますよ」と自身に満ちた様子。
 たしかにシロバナタンポポ自体を見せようという趣旨ではない。オープンに間に合わなくても、タンポポの種が植わっていると明示した上で、土だけの植木鉢を並べても作品としては成立する、と気を取り直しては見たものの、やはり心配で仕方ない。
 そんな折、太田さんから、東京でタンポポの研究をしているある大学助教授の情報を得たので、うちのタンポポの行く末について見解を賜ろうと連絡してみた。結果は、シロバナタンポポの発芽は普通秋口だが、種子の熟し具合によってはまったく発芽しないこともあるとの回答。「えっ。まったく芽が出ないこともあるわけ!?」と慌ててすぐ太田さんに電話をかけた。しかし、ぼくの報告を黙って聞いた後、太田さんはいつものように落ち着き払ってこう言うのである。「大丈夫。作品にする前に中身がちゃんと育っているか確認しているから」
 作家がここまで自身たっぷりなら、後はもう何も言うまい。太田さんを信じるのみである。もちろん、会場で植木鉢100個を見ることになるであろう観客もそうだ。でも、きっと大丈夫である。シロバナタンポポは夏休みが終わる頃には必ず発芽するだろう。
 ちなみに、シロバナタンポポの植木鉢は会期終了後、里親になってくれる方に進呈することになっています。ご希望の方はCCGAまでご連絡ください。
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