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福島 木戸英行
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exhibition小林正人展

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小林正人展
 木枠に張らないカンヴァスに筆を使わず手袋をつけた手で直接絵具を塗りこめ、描きながら徐々に手製の木枠に固定していくという特異な手法の絵画で知られる小林正人。1997年以来ベルギーのゲントに拠点を移し制作する彼の満を持しての回顧展が宮城県美術館で開催中だ。
 出品点数こそ20点と少ないが、これは、近年の同世代の作家には珍しく、ある種の神秘性さえ帯びながら寡黙に制作をつづける彼ならではと言うべきか。互いの干渉を避けるように間隔を保ちながら慎重に配置された作品は、ゆったりという表現があてはまらないほど、これ以上1点多くても欠けてもいけない、という張り詰めた緊張感を展示室全体に横溢させていた(展示室床のカーペットも本展のために特別に剥がしたそうである!)。
 作品が掛けられる高さもそうだ。近年、目線の高さに作品の中心をあわせる従来のセオリーに対して、天井高を誇示するかのような高い位置に作品を掛ける展示手法を多く見かけるようになったが、たいていは作品の力のなさをカバーするギミックとしか受け取れない。本展でも作品が掛けられた位置はセオリーのそれではなく、天井高があるとは言えない同館の展示室に、あるものは高く、あるものは低くという具合に変化をつけられていた。しかし、これは前述のようなあざとさとは無縁で、壁と作品、あるいは作品相互の力学的な関係から周到に計算され尽くした配置であることがすぐにわかる。いや、むしろそうした計算をまったく意識させることなく、あたかも作品が生まれ出た瞬間からそこにあったかのように見えたと言うほうが正しい。

展示風景
展示風景

 展示のことを書き過ぎたようだが、それも、小林正人の作品が空間との関係において語られなければならないからだ。もっとも、ここで言う空間とは、立体作品のそれや演劇的な空間といった体験する場としての環境、ましてや透視図のパースペクティブやイリュージョンを指すのではない。彼の作品が現出させている空間とは、画面とそれに対峙する鑑賞者を結ぶ目に見えない線の中ほど、あるいは、画面や壁を突き抜けてずっと奥へと伸びるその延長線上に位置する何物かである。適当な言葉が浮かばないから空間と仮に呼んだだけで、「中空」と呼んだほうが適切であるかもしれない。この中空に位置するものが、カタログの和田浩一氏のテキストに引用された作家の言葉を借りれば、すなわち「イデー」ということになるのだろう。イデーなんて、今では思わずたじろいでしまいそうになる物言いだが、小林正人の作品を前にすると、その存在をたしかに認めざるを得ない。展示室全体に張り詰めた緊張感とは、展示室の中空のそこかしこに降臨したイデーが発するのである。そして、イデーとはわたしたちが安易に思い描く理想とは異なり、痛みを伴なう鋭利な感覚であったことをあらためて思い知らされた。好企画などという表現では足りないくらい充実した展覧会だった。

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会期:2000年7月15日(土)〜10月15日(日)
会場:宮城県美術館  宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1
開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
入場料:一般900円/大学・高校生400円/小・中学生300円
問い合わせ:Tel. 022-221-2111

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report学芸員レポート [CCGA現代グラフィックアートセンター]

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メソポタミア文明展
メソポタミア文明展
世田谷美術館 8/5〜12/3

ソーラーカー
展示風景 ソーラーカー
野村仁展 8/5〜10/15
生命の起源:宇宙・太陽・DNA
水戸芸術館現代美術センター

 今年の夏休みは実家に帰省しただけなので、家族サービスを兼ねて6 才と3才の子供を連れ、いくつか展覧会をまわった。幼稚園の宿題の日記ネタを与えるという目的もあった。
 
 まず最初は、NHK渾身の大企画「四大文明展」のうち世田谷美術館で開催中の「メソポタミア文明展」。午前中だし雨は降っているしで、少しはゆったりと見られるかと期待したが、館内は案の定すごい混雑振り。日頃、現代美術系の閑散としたギャラリーに慣れている身にはやはりきつい。子供は、と言えば、チケット売り場で並ばされている間に早くもぐずり始める。招待券を忘れたことが悔やまれる。日記のほうは、「きょうはびじゅつかんにメソポタミアてんをみにいきました。よくわかりませんでした」。
 
 1週間後に水戸芸術館の「野村仁展」。「ソーラーカーが見られるぞ」と子供をなだめすかして行った。折り良く当日は児童対象のギャラリーツアーが開催され、我が家の子供たちも参加した。だが、懸命に子供に語りかけてくれる学芸スタッフを尻目にどうもノリが悪い。水戸芸の名誉のために付け加えれば、一緒に参加した小学生は夢中になってツアーを楽しんでいたのに、である。う〜ん、6才児は集中力が15分以上つづかないんだよね。日記には展覧会について記載なし。
 
 で、今日のことだが、今度は自分の子供ではなく、ちょうど藤野国際アートシンポジウムに参加中のドイツ人アーティスト、ハーマン・ノイシュタット、彼のパートナーで同じくアーティストのシルビア・シュライバーと、彼らの5才になるお嬢さんを近所の郡山市立美術館に案内した。ところが、この子の美術館マナーが素晴らしいのにびっくり。展示室に一歩入ったとたん両親のそばを離れず、会話もちゃんと声をひそめる。聞けば、これは何も両親がアーティストだからではなく、あちらではどの子も皆そう教育されているらしい。家庭、幼稚園、学校を通して、子供たちが美術館慣れする環境が整えられているということだろう。
 日本の場合は、などと悲観してもしょうがない。職業柄、我が子も他と比べれば何倍も美術館経験を積んでいるはずだが、これからも、職務に忠実な監視員の視線にめげることなく、せいぜい美術館に連れまわして鍛えてやろうと決意をあらたにした。

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