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福岡 川浪千鶴
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exhibition夏休み子ども美術館 みてみよう! ふれてみよう! かんじてみよう!

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宮崎凖之助のくすのきの作品たち
宮崎凖之助のくすのきの作品たち

 熊本県立美術館は、子どもと美術を結ぶ教師のボランティアグループ「わーくしょっぷの会」との二人三脚で、子ども向けギャラリートークや「夏休み子ども美術館」を平成4年から積極的に行ってきた、九州における鑑賞教育先進館。今年は4人の作家の、素材を異にした立体作品を展示し、すべて自由に触れさせ、触覚を通じた感覚の開放を試みた。
 展示順に、宮崎凖之助は木をつかった球や波板や荷車などの作品、竹田康宏はプラスチックをつかった葉っぱや豆など植物をイメージした作品、児玉士洋はステンレスをつかった大きな扉のような作品、高濱英俊は石をつかい、円を描くようにまるくならべた作品を出品。手で見る彫刻展の手法そのものは、これまでも各地で行われておりさほど珍しさはないが、今回の出品作はともかくサイズが大きい。おそらく子どもにとっては、手といわず体全体で感じさせられた圧倒的な存在感があったはずだ。
 が、担当学芸員の話によれば、子どももおとなも一巡したあと、ほとんどが最初の宮崎凖之助のコーナーに戻っていくとのこと。長年人のくらしとともにあった木が他の素材より馴染み深く、やわらかな触感がさまざまな記憶をよみがえらせることもあるだろうが、なによりも宮崎の作品が「美術作品」然としていないことがその要因だと思う。大小のいびつな球、農家の庭先にあったような車、音のでる箱など、どれも高尚な造形美術臭さがなく、あたたかくてのびやかでなごやかな空気を漂わせている。球をいつまでも抱きかかえている子どもや、車に腰掛けて話し込むおとなたちを見ていて、10年前に亡くなった宮崎の「生活者の思想」が、前衛美術集団・九州派時代からいまもかわらず生きていることがうれしかった。
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出品アーティスト:宮崎凖之助、竹田康宏、児玉士洋、高濱英俊
会期:2000年7月19日〜8月31日
会場:熊本県立美術館
問い合わせ:Tel. 096-352-2111
HP:熊本県立美術館子 どものためのホームページ
関連記事:福岡県立美術館 カタログ

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exhibition冨永剛展

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冨永剛展
 久我記念美術館の前身はコレクター久我五千男氏の個人美術館で、久我氏没後に町に遺贈され、現在はアートスペースとして活用されている。近代洋画や陶芸作品を展示するよう設計された空間の使い勝手は必ずしもよくはない。が、山の中腹にあるロケーションやちょっと変わった内外装を生かした新しいインスタレーションを試みる作家は多い。そして、私が見た中で、それに最も成功した作家が冨永剛である。
 冨永が使ったのは10トンものセメント。まずベニヤの枠で板状に固めたセメント板を思い切り割る。しかるのち破片すべてを美術館に運び、約120平方メートルの展示室の床一面にジグソーパズルよろしく組み合わせた。ふたつの窓もセメント片でふさがれた。
 湿ったセメントのにおいとぐらつく足元。さほど広くない展示空間に一歩足を踏みいれたとたん、干潟のように一面にひび割れた床が広大な、荒涼とした地平に見えてきた。地平線すら見えてくるかのような、不思議に解き放された気持ちを覚える。
 出入り口や部屋の隅に一部漆喰で割れ目がつなぎあわされている部分がある。指で放射状にはしる亀裂をなぞり、細部を見つめていると何かがここから生まれる、そういう実感がわいてくる。ここは破壊され、荒廃した終末の世界ではなく、はじまりの世界、まだ何者とも名づけられない世界というべきか。
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会期:2000年8月9日〜8月27日
会場:久我記念美術館 福岡県粕屋郡須恵町
問い合わせ:Tel. 092-932-4987

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exhibition宮司(アート)参道プロジェクト展

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原田俊宏「文言」
原田俊宏「文言」

斎藤秀三郎「キャベツ」
斎藤秀三郎「キャベツ」

 古代から海を通じて大陸と交流してきた宮司(みやじ)地区、この「地域や場、そこの歴史や人々、それらの関係を考える」ため、地元作家や趣旨に賛同したプロジェクト・メンバーは昨年の8月から1年間、月1回の会合を重ねてきた。郷土史の専門家や宮地嶽神社の宮司の話を聞いたり、神社の行事に参加しながら、話し合い、新聞を発行するといった、誠実な長期間の共同作業をまず大切にし、必ずしも美術に固執しない企画に育てたいと考えたという(タイトルに「(アート)」とあるのはその意か)。
 それは、既成の価値観や制度を超えたところでアートを機能させたいという思いから、「美術展的」であってもいわゆる「美術展」ではないものを目指したと思われるが、結果的にはあまり見ごたえのない「美術展」となった。
 伝統と歴史のかたまりのような宮地嶽神社の存在感に気おされたのか、作品がどれも遠慮がちにみえる。美術ではないといっても美術、美術展ではないといっても美術展という事実。しょぼくみえたり、中途半端にみえたり、意味不明にみえたりする作品は、作品の質といったある種の「縛り」から抜け出る試みといえなくもないが、美術作品としての、美術展参加者としてのこだわりから、「地域や場、そこの歴史や人々」に向き合ってもいいんじゃない、と反対に思ってしまう。
 数多くの作品のなかでは、思いつきと丹念な調査の両方の手法をつかって確信犯的に「しょぼい」作品を12点も点在させた鈴木淳、キャベツが腐っていく過程から個にとっての、集団にとっての時間を視覚化した斎藤秀三郎、1年間のミーティングの現場でひろいあげた言葉を600枚もの短冊にして藤棚に吊り下げた原田俊宏らの作品に、共同性と個の表現、その両面が窺われておもしろかった。
 今回の企画は、美術とは、日本とは、心とは何か、という壮大な問いかけでもあり、その答えはすぐにでるものではない。今回をその第一歩として、ぜひ今後も深めてもらいたい。
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参加アーティスト:平安智子、友池理絵、徳永昭夫、Deeann Rigsby、本山真規子、桑野よう子、原田俊宏、山本宰、山上順子、斎藤秀三郎、坂井存、山本陽子、八木田健二、鈴木淳
会期:2000年8月16日〜9月2日
会場:宮地嶽神社、宮地浜(福岡県宗像郡津屋崎町)
問い合わせ:Tel. 090-8228-5447 
宮司(アート)参道プロジェクト事務局 寺島

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report学芸員レポート [福岡県立美術館]

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 夏休み企画「アートにであう夏vol.2 瑛九のヒミツ」展(7月8日〜8月27日)の作品返却が終わり、これからアンケート等のデータや資料をもとにした展覧会の総括にとりかかる予定でいる。
 展覧会の評価はいつ、誰が、どのように行っているのか? (以前セゾン美術館のシステムの報告例が雑誌『あいだ』に掲載されたことがあった)。行政サイドに金食い虫あつかいされる一方でなく、美術館が地元の活性化に貢献している事実をきちんとした分析やマーケティングリサーチをもとに説得したことはあるか? 県民、市民のニーズというとき、そのニーズを事前に調べたことはあるのか?
 今すくなくとも自館では、このすべての問いに答えられない。市民が求めていることを把握したうえ、きちんとしたコンセプトで展覧会等の活動を企画、事後の評価から課題、問題点を整理し、その成果を公表したうえで次の活動につないでいく。当たり前すぎる、この足元のことが忘れられ、または一番後回しになっていることが、いまじわじわと首を絞めている感がある。
 教育普及的な活動は特に、やることがえらい的な美術館の自己満足で終わってはいけない。当館の企画が夏休み子ども企画としてどの程度有効だったのか、展覧会のターゲットである子どもたちにどのように伝わったか。こうした今回の展覧会評価は、9月末の福岡県内の主要美術館関係者による「福岡美術館ネットワーク」会議で、まず報告を予定している。
 さて10月の福岡は、10年選手の現代美術プロジェクト「ミュージアム・シティ・福岡2000」(10月4日〜11月5日)や、渡り鳥のように秋の風物になりつつある「川俣正コールマイン田川2000」(10月7日〜29日)をはじめに、現代美術展のラッシュ。妻有トリのあとは福岡へどうぞ!

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