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福島 木戸英行
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exhibitionプラスチックの時代|美術とデザイン

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プラスチックの時代|美術とデザイン
第1部 展示風景
手前の作品:倉俣史朗「アクリルの椅子」1990

 20世紀をプラスチックの時代ととらえ、この素材がもつ多様な意味を視覚芸術と産業社会の2つの視点から検証する企画展だ。なんとなく低調気味な?今秋の東日本エリアの美術展の中ではとても楽しめた。

 展覧会は2部構成。まず第1部は、プラスチックの誕生から現在までの道筋を、テキストと各時代の商品広告などの印刷物で時代ごとに解説したインスタレーションを中心に据え、周囲に、戦前のベークライト製の電話機からiMacにいたるプラスチック製品、最近の生分解性プラスチックや人工心臓などの実物を配した展示である。ここに80年代のミュージック・シーンから、廃プラスチック問題など、プラスチックをめぐるさまざまな社会的、文化的視点が挿入され、コンパクトに上手くまとまった教養番組という印象。
 展覧会サブタイトルにある「デザイン」も第1部の主眼だ。ただ、エットーレ・ソットサスや倉俣史朗の作品が展示されてはいるものの、やや食い足りない。もっとも、「大衆の素材」としてのプラスチックと20世紀デザインの関係を見せるのには、この何倍もの展示スペースを使ったひとつの展覧会が必要だろう。

ポータブル・タイプライター
エットーレ・ソットサス&ペリーA.キング
ポータブル・タイプライター
「ヴァレンタイン」(オリベッティ)1969

中原浩大「レゴ」1990-91
中原浩大「レゴ」1990-91

 もっと楽しめるのは第2部で、こちらはプラスチックを素材にした国内外の作品をその造形的な特徴から対比する前半と、プラスチックを素材した作品の制作活動をつづける国内の若手作家を紹介する後半に分けられている。
 前半は、プラスチックとくればお約束のトニー・クラッグのカラフルなプラスチック・ゴミを使った作品から始まり、ナウム・ガボや斎藤義重の懐かしさを感じさせる構成的な作品、60年代のプリント・リバイバルを象徴するオルデンバーグの名作版画「プロフィール・エアフロー」、そして柳幸典のウルトラマン人形による「バンザイ・コーナー」や、中原浩大の巨大レゴ・ブロック製彫刻、石原友明の組み立てキット式マルチプル「I.S.M. 所有 Kit」などが出品されている。もちろん中西夏之の「コンパクト・オブジェ」やアルマンの樹脂製「集積」シリーズもある。いずれも過去に対面したことのある有名な作品ばかりで、しかも個人的にも好きな作品。それだけで嬉しくなってしまう。
 対して後半は、松井紫朗、吉田宏、袴田京太朗、和田みつひと、横溝美由紀ら若手作家たちそれぞれに小スペースのインスタレーションを任せた展示。個人的には袴田京太朗の樹脂製ペインティング?の、意識下に訴えかけるような物語性を孕んだ形象と半透明の黄褐色の画面のマッチングが印象深かった。

 第2部全体を通して良かったのは、プラスチックが喚起するお決まりのイメージの分類(大量生産、軽さ、透明感……)に合わせて作品が選ばれた、という窮屈さがまったく感じられなかったことだ。プラスチックを説明するために作品があるのではなく、あくまで作品が主役という意識が貫かれているのに、それぞれコンセプトや背景が異なる作品群が「プラスチック」をキーワードに結びついている。当たり前のようでこれは結構難しい。作品の一面だけを無理やり強調することで、作品本来の魅力を矮小化してしまったり、逆に作品とテーマとの乖離に混乱させられる展覧会を誰でも一度や二度は経験しているはずだ。「プラスチックの時代」展が成功しているのは、第1部の教養的・博物館的トーンを第2部にひきずることなく、理屈を弄びたくなる気持ちをぐっとこらえて、プラスチック素材という括りのみを科して、潔く作品本位で構成したためだろう。
 そういうわけで、プラスチックを通した文明批評、などと大上段に構えて期待してくると第2部でずっこけることになるが、それはそれでいいのだと思う。とにかく作品は楽しめたのだから、より突っ込んだ企画はまたの機会に期待するとしよう。

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アーティスト:倉俣史朗、エットーレ・ソットサス、平野敬子、三宅一生、立花ハジメ、東松照明、ナウム・ガボ、斎藤義重、アルマン、中西夏之、クレス・オルデンバーグ、石原友明、トニー・クラッグ、カール・アンドレ、柳 幸典、中原浩大、松井紫朗、吉田 宏、袴田京太朗、和田みつひと、横溝美由紀、他
会期:2000年10月7日(土)〜12月10日(日) 月曜休館
会場:埼玉県立近代美術館  埼玉県浦和市常盤9-30-1
開館時間:10:00〜17:30(入館は17:00まで)
入場料:一般570円/大高生470円/中学生以下、65歳以上、身体障害者は無料
問い合わせ:Tel. 048-824-0111

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exhibitionBIT GENERATION 2000 テレビゲーム展

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テレビゲーム展
 埼玉県近美の「プラスチック」につづいて水戸芸術館の「テレビゲーム」とくれば、何となく通底するものを感じないわけにはいかない。いずれも大衆の時代である20世紀が生み出した偉大な発明であり、賛否両論ありながらもわれわれの日常に深く浸透してもはや欠かせないものとなっている。両者ともにアートなんて足元にも及ばない巨大産業で、社会的・経済的な影響力をもっている。地理的に比較的近い両館がこれらの企画展を時を同じく開催したのは面白い偶然だ。とはいえ両展のスタンスはまったく違っていた。
 
 事前の予想では、マス・プロダクト、マス・カルチャー対アート、あるいはその両者の融合、という図式を勝手に想像していたのだが、「テレビゲーム」展では、カタログに掲載された同館・浅井俊裕氏の「テレビゲームと現代美術」と題するテキスト以外には、いわゆる現代美術との関係は何も示唆されない。テレビゲームとアートを同じ土俵で考えることに意味などないんだよ、と言わんばかりに、会場は巨大なゲーセンか、テレビゲームの博物館と化していた。やはり、先の「日本ゼロ年」展のようなアート対サブ・カルチャーのスリリングな対決(あるいは融合)をアートとテレビゲームに期待するのは時期尚早なのだろう(どちらが遅れているのかはこの際問わないことにしよう)。
 それにしても、テレビゲーム門外漢にとっては、アートを糸口に今まで乗り遅れてきたテレビゲームの世界を再発見する機会を期待していただけに、少々残念というのが偽らざる感想だ。
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BIT GENERATION 2000 テレビゲーム展
会期:2000年10月28日(土)〜1月28日(日)
会場:水戸芸術館現代美術センター  茨城県水戸市五軒町1-6-8
開館時間:9:30〜18:30(入館は18:00まで)
休館:月曜日(ただし1/8は開館、1/9休館)、12/28(木)〜1/3(水)
入場料:一般800円/中学生以下、65歳以上、身体障害者は無料
問い合わせ:Tel. 029-227-8111

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report学芸員レポート [CCGA現代グラフィックアートセンター]

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 最近、ある美術系のメーリングリストで埼玉県立近代美術館の監視員のことが話題に上った。展示室隅の椅子に腰掛けているだけでなく、監視員の方から作品についてフレンドリーに語りかけてきてくれるというものである。ふ〜ん。そんな人もいるのか。でも、いざ直面すると鬱陶しい場合もあるんじゃないかな、というのが記事を読んだ時の感想だったが、「プラスチックの時代」展のギャラリーで、ぼくもそれと思しき監視員に出会うことができた。もちろん全員がそうなのではなく、ぼくが感心したのは、その時たまたま第2部のギャラリーにいた数人の中のお一人である。
 中年の女性で自らアルバイトとおっしゃるこの方、ぼくが吉田宏の作品の前にいると、やおら近寄ってきて作品解説をしてくれる。これが当初の予想とは違って全然押しつけがましい感じがしない。学芸員に教わった、と断りながら作品のコンセプトを話してくれるのだけど、メーリングリストで最初にこれを報告した人の発言にもあったように、彼女自身が展覧会や作品を一番楽しんでいる様子がありありと伝わってきて、それがとても爽やかな印象なのである。
 
 聞けば、どうやらこれは美術館のサービスというわけではないらしい。監視員に対する事前の説明や教育が十分に行き届いていることは間違いないが、あくまでこの人の資質と才能によるものなのだ。たしかに、こうしたコミュニケーションを来館者サービスとして監視員の仕事のメニューに組み込んでも決して上手くいかないだろうと思う。サービスとお節介は紙一重だったりするのだから。実際のところ、この女性自身はこれをサービスとは思っていない様子である。自分が楽しんでいることを人に伝えたい一心なのだ。でも、こうしたスタッフの存在が何よりも美術館や展覧会を盛り上げることだけは確実だ。
 ところで同展ではこんなシーンにも出くわした。館関係者、おそらくは事務方のスタッフと思われる男性が、視察客に展覧会を案内していたのだが、出品作品を指して「こういうモノばかりだから、展覧会の案内状を議員先生たちには出さないことにしています」と大声で説明している。う〜ん。そりゃ、その方が賢明かもしれないけど……。この人の発言が、スタッフの一員として美術館を守りたいという思いから出たものであることを祈りたい。

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