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福岡 川浪千鶴
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eventミュージアム・シティ・福岡2000

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 2年に一度ミュージアム・シティ・福岡が開催される10月の福岡は、各種のアートプロジェクト、展覧会、ワークショップにレクチャーなどのイベントがてんこもりになるのが常だが、今年はまさに怒涛のアート月間。スケジュールが未定だったり、突発的に作品が移動したり、各種イベントが週末に思いっきり重複したりしたので、その全部を見た人はまず誰もいないだろうなあ。私は大目にみて8割カバーといったところ。その中から、この月間を代表するふたつの展覧会を紹介したい。  

「障碍の茶室」での茶会
「障碍の茶室」での茶会

マッティ・ブラウンの作品
マッティ・ブラウン
内田焼印店の表から作品を望む

鈴木淳のパフォーマンス「歴史的ピクニック」
鈴木淳のパフォーマンス
「歴史的ピクニック」
通行人と因幡町商店街の話をする

鈴木淳のパネルの作品
鈴木淳「やまへ、やまのあと
〜みえない山のはなし」
スロープ脇の壁面の小さなパネルが作品
中央の階段が主役の「みえない山」

「火の鳥・鳳凰」
「灯明ウォッチング」
旧御供所小学校庭の作品タイトルは
「火の鳥・鳳凰」

 まずはミュージアム・シティ・福岡(以下MCF)。福岡市の中心エリアを舞台に、市民、企業、行政の協力によって開催されてきた、この国際美術展は何と今回で6回目、10周年を迎えた。内外の作家が滞在制作やワークショップを行い、街のさまざまな場所に作品を出没させることで地域に密着した交流を目指すというのが企画趣旨で、今回のタイトル[外出中]は、「アーティストそれぞれの〈外に出る〉形が街の様相と結びついて互いを関係づけること」という原点に今一度立ち戻ることを意味している。「アートの社会性の可能性」という原点に戻るという意味には、現在今後の方針が示されている訳ではないが、リセットというか、これまでの活動に区切りをつけようとしている事務局側の心情が窺われる気がする。外出したいのは作家のみならずというところかも。次回のMCFはいずこへ?
 さてその内容は、1990年の第1回展「感性の流通−見られる都市、機能する美術」(53作家による約60ヶ所での展示)のむちゃくちゃな規模には負けるが、今回も参加作家23組(招待作家11組、公募作家12組)の大所帯。だが、バブル期の福岡の繁華街になだれ込んだ1回展の熱やパワーやその後の華やかな展開に比べて、かなりトーンダウンした感は否めない。「地域に密着した交流」の概念が、より個から個への問題へと変化していることも大きく、都市景観を一変させるような巨大なものや派手なものはほとんどなく、どれもこぢんまりと控えめで、もの静かな感じを受ける。  

 その中で心に残ったベスト3(という言い方も似合わないなあ)は、和田千秋+中村海坂のよる「障碍の茶室」、鈴木淳の「ぺったんくん、因幡町商店街に現る!!」、内田焼印店に展示したマッティ・ブラウンの作品。どれも伝統や歴史に関係した作品だった。
 「障碍の茶室」のコンセプトは、障碍者(「障碍の美術」に携わる和田は「障害」という文字を使わない)の入室を拒んできたという意味で障碍を負っている茶室を、障碍者と非障碍者が出会い交流できる場にするというもの。非障碍者も全員車椅子を事前練習したうえ、車椅子の高さにあわせたにじり口(非障碍者は腰をかがめないと入れない)を車椅子に乗ってくぐり席につくことが勧められる。車椅子で自在に動いてみる、これはとても新鮮な体験で、どの人も嬉々として練習に励んでいた。茶会が始まると一転して、日常生活には少ない心地よい緊張感がみなぎる。亭主である表千家の茶人中村も和田が押す車椅子に乗って現れ、取っ手をつけ二重底にした特製の茶碗でお茶を点て、和田がそのお茶を運ぶ。客はおいしいお茶を静かにいただくだけで、お茶事としては特に変わったことをするわけではないのだが、茶道の伝統の厚みが不思議な開放感を与えてくれる。もてなしの心が気持ちをさわやかにしてくれたともいえる。
 伝統の解釈や異文化間の相違や交流に関心をもつブラウンの作品もしみじみとした感興があった。ブラウンは道すがら心引かれた、印や文字を焼き付ける鏝、焼印をつくっている小さな工房に、東南アジアの染織品の文様を版と手書きで写し取った作品をさりげなく吊した。日頃足を向けない問屋街にある古い工房の雰囲気、職人さんの存在感、手わざでつながりつつも、かすかなズレの断層を見せる作品。それらがあいまって忘れられない印象を醸していた。
 鈴木は繁華街・天神の歴史を人と人とのつながりとして提示。天神の中央部に位置するファッションビル「天神ビブレ」がある場所は、三十数年前は「因幡町商店街」と呼ばれていたところ。公設市場時代から現在も引き続きビブレで営業を続けている7軒の店の人の思い出話や古い地図、商店街史などの資料をもとに、鈴木はかつての商店街の面影を丹念に掘り起こし、人と人、人と街が織り成す、小さくて大きな歴史をこまごまとしたコピー作品群を通じてこっそりと教えてくれた。番外展示の「やまへ、やまのあと〜みえない山のはなし」という作品は、ビルの中にある数段のステップが、商店街やビブレが昔ここにあった丘を少しずつ削ってつくられた事実と時の推移を耳打ちするように伝えていて、思いがけず目にした私はかなり感動しました。
 博多部のまちづくりのためのお祭り「灯明ウォッチング」は3年前にMCFが関連イベントとして加わってスケールアップし、こちらはますます力が入っていて豪華だった。歴史ある寺社町、下町界隈の路地を提灯を下げ、ビール片手にまわる一夜は本当に楽しくてやみつきになりそう。

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ミュージアム・シティ・福岡2000
出品アーティスト:小沢剛、池水慶一、シュー・ジェンレン、金山直樹、パトリック・ルブレ、パット・ホフィー、ナウィン・ラワンチャイクン、絵画グループ「ハトマッチ」、橘高千尋、阿部浩二、和田千秋+中村海坂、マッティ・ブラウン、キム・ソラ、坂井存、白戸麻衣、中込潤、中山和也、仰木香苗、牛島智子、鈴木淳、八谷和彦、藤浩志、ベンジャミン・ボア
会期:2000年10月4日(水)〜11月5日(日)
会場:福岡市天神地区及び博多部の商業ビル、公共施設等
問い合わせ:Tel. 092-283-6205 ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局

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exhibition水晶系の作家たち−「水晶の塔をさがして」

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小林健二
小林健二 福岡市美術館

佐々恭子
佐々恭子 福岡市美術館

 看板のアジア美術コレクションとアジア美術展が専門館(福岡アジア美術館)へと移っていったあと、さて福岡市美術館はどういう方向性を打ち出すのか。同じ市内の美術館学芸員として気になっていたが、地元福岡市へのこだわりと現代美術に取り組む姿勢が「21世紀の作家−福岡」展や「水晶の塔をさがして」で明確になってきた。「水晶の塔」展は福岡市美術館始まって以来最も大規模で充実した内容の自主企画展で、参加作家のひとりに地元作家(佐々恭子)も含まれている。「現代アートが開く[私]の世界」とサブタイトルにあるように、「自分にとって大切なもの」を作品として結晶化させている、さまざまなタイプのアーティスト5人が選ばれた。
 「水晶の塔」に「私の世界」と続くと美しいけれどどこか自閉的に聞こえるが、私的であいまいなものを求め大切にし結晶化することが、「私という枠を越えた他の誰かとの交信の第一歩になる」とあいさつにつづられている。展覧会コンセプトも出品作品もある意味でシンプルでストレートな印象をもった。アートの社会性の可能性をめぐって「交流」ばやりのアートシーンへの、これは静かな批判でもある。
 5人の複合個展形式ではあるが、なかでも「存在が美術の始源」を示しているとエッセイで語られている小林健二は、「水晶の塔」展企画のきっかけになった中心的存在として突出している。福岡市美術館での展示内容、ボリュームもさることながら、下記の一覧のとおり同時に3ヶ所のギャラリーが共同して、それぞれ異なるテーマの個展を同時開催し、小林ワールドはまさに全開状態。その中では自分のアトリエの一部をそっくり移してきたような三菱地所アルティアムでの展覧会が魅力的だった。小林の道具を手にとり、作品のささやきに耳を澄ます心地よさは大作中心の「水晶の塔」展にはないもの。「水晶の塔」展へのいわずもがなな不満としては、美術館での展覧会スケールにあわせた大作ぞろいの展示内容が、そのままその作家の真髄を伝えたとはいい難いのではないかということ。そういう部分をギャラリーでの展示は救ってくれた。
 さて、この展覧会コンセプトを勝手に活用していえば、福岡市美術館で同時期開催の「21世紀の作家−福岡」展の桑野よう子も、福岡県立美術館の「アートの現場・福岡」展の八尋晋も「水晶系」だな(電波系ではない)。生きることと表現することを限りなく誠実に重ねて考えている彼らの作品には、多くのもの、こと、そして何よりも人とつながる回路があると思えるから。

小林健二
小林健二展 展示風景
三菱地所アルティアム
八尋晋
八尋晋
「鳥の居る場所−チャンネルをあわせろ!」
桑野よう子
桑野よう子展
福岡市美術館

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水晶の塔をさがして
出品アーティスト:大森裕美子、佐々恭子、松尾藤代、平田五郎、小林健二
会期:2000年10月7日(土)〜11月5日(日)
会場:福岡市美術館
問い合わせ:Tel. 092-714-6051

小林健二アートプロジェクト
(1)「水晶の塔をさがして」10月7日〜11月5日 福岡市美術館(092-714-6051)
(2)「内景 Inner space」10月10日〜11月5日 Galerie CAZUQUI (092-716-1032)
(3)「プロキシマ;見えない婚礼」10月12日〜11月12日 三菱地所アルティアム(092-733-2050)
(4)「セファイドの水」 10月22日〜11月12日 SPACE O,E,C. (092-721-6013)

第2回21世紀の作家−福岡 桑野よう子
会期:2000年10月11日(火)〜12月27日(水)
会場:福岡市美術館
問い合わせ:Tel. 092-714-6051

アートの現場・福岡vol.8 八尋晋「チャンネルをあわせろ!」
会期:2000年10月6日(金)〜11月12日(日)
会場:福岡県立美術館
問い合わせ:Tel. 092-715-3551

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report学芸員レポート [福岡県立美術館]

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11月4日(土)
 MCFが残りわずか!出張続きで疲労困憊の体に鞭打って2日間でめぐる決意をする。天神の画廊を回ったあと、招待作家がまとめて展示され、事務局も置かれている旧御供所小学校へ直行。見終わって小沢剛の相談芸術カフェでくつろいでいると、水戸芸術館の森さん、メセナ協議会の熊倉夫妻と出くわす。MCF事務局長の宮本さんが車で案内すると聞き、博多部の作品巡りに同行させてもらった。ラッキー!
 内田焼印店から博多リバレインの「障碍の茶室」にまわり、博多町屋ふるさと館の阿部浩二、マクドナルドのパトリック・ルブレ作品を見て、キャナルシティ博多へ。キャナルではナウィン・ラワンチャイクンのマイペンライ屋台の巨大であやしげなプラスチックの入れ物に入ったジュースを飲みながら、公募作家作品を見学。福博であい橋近くのシュー・ジェンレンの作品を車のなかから眺めつつ、飲み会へ。MCFの山野さん、なんと公募作家でもある藤浩志さん、どこでもパワフルな助っ人ぶりを発揮するアジア美術館のボランティアさんらも合流して、焼酎が2升空いた。

11月5日(日)
 初日に見にきて以来だった福岡市美術館の「水晶の塔」と桑野よう子展をもう一度見つつ、撮影させてもらう。さすがに最終日の「水晶の塔」は人が多いが、見知った人にいっぱい会う。平田五郎の蝋の家は中に入るのが順番待ち状態!蝋の家の2階部分はひっきりなしに人が出入りするせいか暑かった。蝋が溶けちゃうかな?対称的に会期の長い桑野展はひとけがないので、ゆっくり撮影できる。小林健二アートプロジェクトを行っている一連のスペース、Galerie CAZUQUI、三菱地所アルティアム、SPACE O,E,C. を連続してまわる。どこも熱心な小林ファンの姿あり。
 この段階で午後3時過ぎ、さあ一挙に天神部のMCF作品をまわって、スタンプラリーを制覇するぞ!(今回は作品の側24ヶ所にスタンプ台があり、それぞれの作品をシンボライズしたかわいいデザインのスタンプが用意されている。全部台紙に押して提出すれば、ヒミツのアートグッズがもらえる)。9ヶ所のファッションビルの中をうろつくこと約3時間。スタンプラリー達成!天神部のMCFははっきりいってスタンプラリーのためにまわっていました。ふらふらになって藤浩志さんのviny-pla info cafeへ。からからののどをビールでうるおしつつ、PICAF(Pusan International Contemporary Art Festival)のビニプラプロジェクトの会場のようすをリアルタイムで眺めつつ、かえっこショップDeliveryの情報をもらう。(藤さんのプロジェクトは次回レポートの予定)夕食の買い物をしながら帰る途中で気づいた。ビール代払ってない!つけにしてねとカフェに電話する。とほほ。
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藤浩志企画プロジェクト情報
viny-pla info cafe Vinyl Plastics Connection Fukuoka-Pusan Session
会場:MOMA CONTEMPORARY(福岡市)
会期:2000年10月5日(木)〜11月26日(日)
時間:10:30〜22:00(月曜休み)
問い合わせ:Tel. 070-5907-1459 viny-pla info cafe (江口)
藤浩志HP:http://www1.linkclub.or.jp/~fuji/VPC/

かえっこショップ Delivery
会期:2000年11月中の週末
会場:福岡市内の商業スペース、小学校等
問い合わせ:Tel. 070-5907-1459 viny-pla info cafe (江口)

第1回霧島アートの森ワークショップ記録展 山と田畑と散歩と美術
会場:霧島アートの森(鹿児島県姶良郡)
会期:2000年10月21日(土)〜12月24日(日)
出品アーティスト:岡山直之、ホッペ・黒岳山麓美術会議、小山田徹、Yy Club
問い合わせ:Tel. 0995-74-5945 霧島アートの森

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