logo

Recommendation
福島 木戸英行
.


exhibitionアレクサンダー・カルダー展

..


アレクサンダー・カルダー展
 アレクサンダー・カルダーの回顧展巡回が始まった。いわき市立美術館を皮切りに2002年4月までに国内8館をまわるというのだから、いまさらながらカルダー人気の高さに驚かされる。
 言うまでもなく、日本人の多くは図工・美術の教科書の図版を通して子供の頃からカルダー作品に親しんでいる。たとえ彼の名前を覚えていなくても「モビール」という言葉は誰もが知っているはずだ。同じ20世紀彫刻の大家でもイサム・ノグチやアンソニー・カロでは絶対にこうはいかないし、ヘンリー・ムーアやブランクーシだって怪しいものだ。
 こういう状況を反映して、カルダー作品は国内の公的コレクションでもよく見かける。美術館も行政もカルダーは大好きなのだ。実際のところ、カルダー作品ほど人好きのする美術作品も珍しい。地方都市の街中に設置されたパブリックアートの多くが女性裸像の具象彫刻だったのはなぜ?という批判があるが、カルダーならそんな問題も起こらないだろう。  

 本題の展覧会だが、初期から晩年にいたるまで満遍なく選ばれた作品で構成され(もちろん大規模なスタビルの場合は解説パネルやビデオでの展示になるが)、彼の生涯の軌跡がひととおり理解できるように配慮されている。
 そんな中で来館者の注目を集めていたのは、どうやら戦前の「カルダーのサーカス」に代表される、動物や人を模した針金やブリキ細工の作品群だったようだ。この辺りの作品は、10年ほど前に開催されたカルダー展でも紹介されており、すでに知っている人も多い思うが、何度見てもやはり楽しい。  これらの素朴な針金彫刻は、カルダーがモビールやスタビルを考案する以前の模索時代に手慰みとして作ったもので、これをもってカルダー芸術の意義を語るわけにはいかないだろう。しかし、作品を間近に見ると「この天真爛漫なブリコラージュぶりこそ、カルダー芸術の真骨頂であり魅力なんだ」と言いたくなる。
 実際に、会場の後半には1930年代以降のモビールやスタビルの展示があり、それらは紛れもなく、国際空港のロビーやよく整備された公園の芝生、高層ビルが立ち並ぶモダンな都市といった景観こそがその背景にもっとも相応しい、とわれわれが考えるカルダー作品なのだが、これらにしても、美術館の照明下で仔細に観察すれば、意外なほど素朴な手仕事の跡が目立つことに気づく。雑とか稚拙というのではない。清貧と労働を尊ぶピューリタニズムの痕跡といった風情なのだ。カルダー作品が体現していたのは、戦後の近代的なアメリカではなく、開拓時代の精神だったのだな、ということを納得させられる展覧会だった。

..
アレクサンダー・カルダー展
会場:いわき市立美術館  福島県いわき市平字堂根町4-4
会期:2000年11月3日(金)〜12月17日(日) 月曜休館
開館時間: 9:30〜17:00(入館は16:30まで)
入場料:一般940円/高・高専・大420円/小・中生210円
問い合わせ:Tel. 0246-25-1111

top

exhibitionグループ貌とその時代展

..


グループ貌とその時代展

グループ貌とその時代展カタログ
グループ貌とその時代展カタログ(左)
『JEUX D'ESPRIT』復刻版(右)

 毎年、わが国の近代絵画史のさまざまな断面をユニークな切り口で紹介する企画展を行なう郡山市立美術館だが、今年は、第2次世界大戦前夜の緊迫した時代状況下における画学生たちの動向を検証する展覧会を見せてくれた。
 展覧会タイトルのグループ「貌(ぼう)」とは、1937年(昭和12年)東京美術学校油画科在籍中の学生が、海外のシュルレアリスム運動に触発されて結成したグループで、メンバーは、鎌田正蔵、杉全直、加藤太郎、若松光一郎ら、昭和8年入学の同期生を中心にした12名である。彼らの多くが戦争に召集されてしまったためグループの実質的な活動期間は3年に満たないが、その間、4回のグループ展開催や謄写版刷りの同人誌発行などの足跡を残した。
 展覧会は、メンバーそれぞれのグループ活動当時の作品を軸に、展覧会ポスターなどの資料、同時期の周辺作家たちの作品という構成で、他に国内コレクションから集められたヨーロッパのシュルレアリストたちの作品が参考出品されている。
 展覧会の狙いとしては、駆出しの画学生の集まりに過ぎず、日本の近代絵画史に重要な位置を占めるとも言い難い、このグループにあえて着目することで、日本のモダニズムの幼年期における海外からの美術理論の受容過程や、当時の時代精神といったものを描き出すことであり、それは十分に達成されていたと思う。作品について言えば、メンバー各人の力量の違いもあるし、何よりも時代の経過は隠しようもないが、それでも、夭折してしまった杉原正巳の植物を題材にした木版画などは、技術的にもとても昭和10年代の作には見えないほど洗練されていて印象に残った。
 ところで、当時、学生たちの間では「貌」以外にも前衛芸術を志向する小グループを結成するのが流行したらしく、本展カタログにも同時代のそれらの資料が収録されている。こうした流行の背景や、彼らがなぜこうもグループを組みたがったのかについては、展覧会自体では深く語られていないが興味のあるところだ。もちろん、日本の美術全体がまだ幼く、西欧モダニズムを素直に信じて、貪欲に、あるいは節操なく、吸収しようとしていた時のことだから、結局は「若気の至り」というのが一番当を得ているのだろう。しかし、だからこそ、今から見れば少々気恥ずかしくもある(当時の)若きアーティストたちのアートにかける熱気が、世代は全然違うけど元画学生であるぼく個人にとっても、遠くて近い過去とでも言うのか、ほろ苦く懐かしい感慨を呼び起こす展覧会だった。

..
グループ〈貌〉とその時代展
作家:鎌田正蔵、杉全直、加藤太郎、高橋善八、杉原正巳、山本占太郎、福留五郎、日向裕、石原寿市、山元恵一、白瀧彰彦、若松光一郎、マックス・エルンスト、サルバドール・ダリ、アンドレ・マッソン、ジョルジョ・デ・キリコ、ジョゼフ・コーネル、マン・レイジョアン・ミロ、ルネ・マグリット他
会場:郡山市立美術館  福島県郡山市安原町字大谷地130-2
会期:2000年11月11日(土)〜2001年1月14日(日) 月曜日休館
開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
入場料:一般500円/高校・大学生300円/小・中生150円
問い合わせ:Tel. 024-956-2200

top

report学芸員レポート [CCGA現代グラフィックアートセンター]

..


 福島県内は年明け、場所によっては60数年ぶりというほどの大雪に見舞われた。幸い職場の周辺はそれほどでもなかったが、それでも、ぼくが当地に来て以来6年間では一番の積雪。新年早々雪かきに明け暮れる日々となった。運動不足から慢性的な腰痛持ちにとっては少々やばい状態。東京の知人のアーティスト某氏はさっそく「雪、見たいなぁ。今度来る時、雪持ってきてよ」と茶化しの電話をかけてきた。
 
 で、唐突だが、仙台市が計画していた新文化施設「せんだいメディアテーク」がいよいよ1月26日から一般公開されるらしい。「メディア」と「ことば」をキーワードに、図書館、ギャラリー、映像メディアセンターなどを統合した新しいタイプの文化施設ということ。その設立理念は以下のとおり。
 
 「せんだいメディアテークは、
 さまざまなメディアによる情報の
 獲得・表現・記録・伝達のための環境を整備し、
 次の指針に基づいて、
  人々の知的、創造的な活動を支援します。
 
 1 最先端の精神を提供(サービス)
  利用者の需要にフレキシブルに対応します。
  2 端末(ターミナル)ではなく節点(ノード)である
  ネットワークの利点を最大限に活用します。
 3 あらゆる障壁(バリア)から自由である
   健常者と障害者、利用者と運営者、
   言語や文化などの障壁を乗り越えます。」 (同館 Web サイトより)
 
 う〜ん。従来の行政からは想像できないなかなかのコンセプト。とは言うもの の、伊東豊雄による全面ガラス張りの建築の話題が先行して、中身の実体が見えてこない(ぼくが知らないだけかも)。いずれにせよオープンが楽しみ。

..
開館記念イベント「メッセージ/ことばの扉をひらく」
会場:せんだいメディアテーク  宮城県仙台市青葉区春日町2-1
会期:2001年1月26日〜3月20日
休館日:休日を除く月曜日 2/13、2/28は閉館
開館時間:9:00〜22:00(展示は20:00)
入場料:一般800円/高大生500円/中学生以下無料
問い合わせ:Tel. 022-713-3171

top



artmix | MIJ | art words | archives
copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2001