本題の展覧会だが、初期から晩年にいたるまで満遍なく選ばれた作品で構成され(もちろん大規模なスタビルの場合は解説パネルやビデオでの展示になるが)、彼の生涯の軌跡がひととおり理解できるように配慮されている。 そんな中で来館者の注目を集めていたのは、どうやら戦前の「カルダーのサーカス」に代表される、動物や人を模した針金やブリキ細工の作品群だったようだ。この辺りの作品は、10年ほど前に開催されたカルダー展でも紹介されており、すでに知っている人も多い思うが、何度見てもやはり楽しい。 これらの素朴な針金彫刻は、カルダーがモビールやスタビルを考案する以前の模索時代に手慰みとして作ったもので、これをもってカルダー芸術の意義を語るわけにはいかないだろう。しかし、作品を間近に見ると「この天真爛漫なブリコラージュぶりこそ、カルダー芸術の真骨頂であり魅力なんだ」と言いたくなる。 実際に、会場の後半には1930年代以降のモビールやスタビルの展示があり、それらは紛れもなく、国際空港のロビーやよく整備された公園の芝生、高層ビルが立ち並ぶモダンな都市といった景観こそがその背景にもっとも相応しい、とわれわれが考えるカルダー作品なのだが、これらにしても、美術館の照明下で仔細に観察すれば、意外なほど素朴な手仕事の跡が目立つことに気づく。雑とか稚拙というのではない。清貧と労働を尊ぶピューリタニズムの痕跡といった風情なのだ。カルダー作品が体現していたのは、戦後の近代的なアメリカではなく、開拓時代の精神だったのだな、ということを納得させられる展覧会だった。
福島県内は年明け、場所によっては60数年ぶりというほどの大雪に見舞われた。幸い職場の周辺はそれほどでもなかったが、それでも、ぼくが当地に来て以来6年間では一番の積雪。新年早々雪かきに明け暮れる日々となった。運動不足から慢性的な腰痛持ちにとっては少々やばい状態。東京の知人のアーティスト某氏はさっそく「雪、見たいなぁ。今度来る時、雪持ってきてよ」と茶化しの電話をかけてきた。 で、唐突だが、仙台市が計画していた新文化施設「せんだいメディアテーク」がいよいよ1月26日から一般公開されるらしい。「メディア」と「ことば」をキーワードに、図書館、ギャラリー、映像メディアセンターなどを統合した新しいタイプの文化施設ということ。その設立理念は以下のとおり。 「せんだいメディアテークは、 さまざまなメディアによる情報の 獲得・表現・記録・伝達のための環境を整備し、 次の指針に基づいて、 人々の知的、創造的な活動を支援します。 1 最先端の精神を提供(サービス) 利用者の需要にフレキシブルに対応します。 2 端末(ターミナル)ではなく節点(ノード)である ネットワークの利点を最大限に活用します。 3 あらゆる障壁(バリア)から自由である 健常者と障害者、利用者と運営者、 言語や文化などの障壁を乗り越えます。」 (同館 Web サイトより) う〜ん。従来の行政からは想像できないなかなかのコンセプト。とは言うもの の、伊東豊雄による全面ガラス張りの建築の話題が先行して、中身の実体が見えてこない(ぼくが知らないだけかも)。いずれにせよオープンが楽しみ。