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岡山 柳沢秀行
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exhibition柳幸典展−あきつしま−

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柳幸典展−あきつしま−

柳幸典展−あきつしま−2
 第2次大戦中撃沈され太平洋に沈んだ日本の戦艦を、組立前のプラモデルを原型にして鉄とブロンズで拡大鋳造したパーツ模型。沈没した戦艦を撮影した海底写真。太平洋を中心に据えた古海図の上には、破砕されたガラスのブルーのイメージ。これらを基本アイテムに、太平洋そして日本の存在を主題とする「PACIFIC」プロジェクト。
 その初出となった3年前の『PACIFIC』(フジテレビギャラリー 1997年12月)展カタログにおいて、柳幸典は「太平洋の広大な海の底に封じ込められた鉄の遺跡と、その意味するものについて訪ねてみたい」と記した。
 さらに同カタログには、それまでの柳の活動を的確に評するのみならず、『PACIFIC』展の時点では、いまだ素材のように投げ出されていた作品達の意味をたぐり、今回の広島での展覧会の成果すら先取りした感すらある、水沢勉の優れたテキスト「砕かれた海 柳幸典の新しいプロジェクトに向けて」が収められている。いわば柳と水沢の言説により、今展の姿はすでに3年前に明確にさし示されていたとも言えよう。
 もちろん、構想し、さし示すことが出来ても、現実の場にモノとして提示するためには、それは十分な条件ではない。
 今展では、神武天皇時に遡る日本の古名「あきつしま」の名を持つ、第2次大戦中フィリピン沖に沈んだ戦艦を取り上げ、「PACIFIC」プロジェクトは見事に完成度を高めた姿を見せている。
 また、なにより脱帽させられたのは、やはり『PACIFIC』展カタログの巻末に丁寧に示された、1985年以来の柳が手がけたプロジェクトの相関図が、実際の作品として会場に構成されていることである。
 もとより、この作家が繊細巧みに空間を作り上げることは承知していたが、個々のプロジェクトの見せ方、その各々が密接な関係を持ちながら連関する様を、現実の空間に落としこんでゆく展示構成の手際には敬服した。むろん、各作品やプロジェクトの相関のありさまを明瞭に理解させつつも、単純なチャートには落とし込めない作品のぶあつい実在感が展示場に露出していることは言うまでもない。
 個々の作品にまで立ち入る余裕はないが、この展示構成という点に関わり少しだけ書き留めておきたい。
 柳の作品を発表の時系列に沿って見ると、基本となる「交通」「移動」「境界」のコンセプトを色濃く示した初期作品から、柳の名を一躍知らしめた「Ant Farm Project」を基点に、国旗、国境、そして天皇制、日の丸、第2次大戦、憲法第9条と言う厄介な問題を主題として掲げ、そして次第にその時空間を戦争期から現在に至る日本を対象とした作品へ移行している(ただし天皇制への言及によって、それは一挙に古代へと遡航する糸口を持つが)。
 しかし展示場での順路では、こうした時系列は無視される。
 そして、あえて注目をうながすかのように、最後の『PACIFIC』の部屋へとあがる階段の前で「Ground Transport」「Ground Fishing」等の初期作品がかなりのスペースをもって挿入されたうえ、最後の『PACIFIC』の部屋でも、沈没した戦艦の写真撮影のため幾度か試みられたダイビングの軌跡をプラン図として添えることで、「交通」「移動」「境界」と言ったコンセプトへのこだわりが執拗にも再提示される。
 また、あまり紹介される機会のなかった1987年の「Ground coloring/I feel yellow」と言う着色された気体の充満した缶を開けるパフォーマンス的な作品と、かつてアメリカ連邦刑務所のあったアルカトラズ島を素材にした「Wandering Position on Alcatraz」といった、極めてコンセプチャルで安易には読み解きがたい、それだけに作者のこだわりが感じられる作品が、展示場の中でも明確な場を占め、それも効果的な場所に配されている。
 そうと気づけば、1995年キリンプラザ大阪での個展『Project Article 9』のカタログの巻末に、唐突にも「Ground coloring/I feel yellow」の写真が見開きで挿入されており、この作品への作者の執着が示されているし、またその煙の立ち昇る姿は、同個展の主要作であった「The Forbidden Box」に現れた原爆によるきのこ雲の形状と相似なもので、ささやかながら「Ground coloring/I feel yellow」を紐解く(誤読へと誘う?)糸口も示されている。
 また「Wandering Position on Alcatraz」は、地図上の砕かれたガラスが「PACIFIC」の海図と同手法であるが、この作品では常に明快な表現を示す柳には珍しく、作者による膨大な作品メモ2冊が注釈のように展示場におかれ、そのひとつひとつに丁寧に目をやらねば、このプロジェクトが抱える内容は見え難い。
 このように、他のプロジェクトと何かしらのつながりを示しながらも、一見しては読み解き難かったり、煩雑でもあるパートをあえて挿入することで、いまだ表出しつくせず、それゆえに見定めかねる要素が各作品プロジェクトの隙間に残されていることを感じさせ、そのことが、かえって今後に大きな展開を孕むような良い意味での未完のスケール感を醸し出している。
 そのことと相補するように、バブル期の日本への揶揄とも言える「ヒノマルコンテナ」、あるいは東京の地下鉄路線図が皇居を空白として描き出す「トウキョウダイアグラム」といった、作品のさし示すところが理解しやすく、それだけに社会状況の図解きとして用いられやすい作品が、今展では他の作品から離れたエントランスに放りだされたように扱われ(「ヒノマルコンテナ」と並んでエントランスに展示された「20柱のハニワと私」はビデオ映像によって展示場各所に露出していたのとは対照的に)柳の活動に占める比重が低減されているようにも感じる。
 このことをふまえて、あるいはこうも言えるかもしれない。
 この展覧会は、「PACIFIC」プロジェクトを見事な結実として見せるために、今に至るまでのプロジェクトが抱えていた振幅をある道幅へと周到に収斂させている。こうした作業を通じ、柳幸典は、まだ現在進行形のアーティストが、たんなる時系列に沿った回顧展示にはめ込まれる危険など微塵も感じさせないどころか、今に至る自分の仕事を丁寧に整理し、これまでの自分の作品に対して、観客に荘厳ですらあるイメージを提示することに十分に成功している。
 もっとも、多くの作家が声高に、そして大上段な姿勢で取り組むことの多かったイデオロギー的な摩擦を生みやすい主題たちを、あっけらかんと、そして時にいたずらっ子のような手つきで見事に扱ってきた柳は、またやすやすと笑みを浮かべながら、そんな自ら生成した自らのイメージをすり抜けて、次なる展開を見せてくれるだろう。

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会場:広島市現代美術館
会期:2000年12月17日〜2001年2月12日
問い合わせ:Tel. 082-264-1121

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report学芸員レポート [岡山県立美術館]

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 紙数の都合もあり、おそらく関西圏のどなたかが取り上げられるであろうから、今回は触れなかったが、西宮市大谷記念美術館での太田三郎さんの個展も素晴らしい展覧会。
 半年前のCCGAでの個展『存在と日常』では出ていなかった太田さんの生理感までも、どっと展示場にあふれだす感じで、これまでの太田さんの展覧会の決定版でした。
 この二つの現代作家の個展が世紀を越える時期に、西日本で開催され、またそのどちらにも立ち会うことが出来たのは、ほんとうに幸せでした。と言うほど、良い展覧会であった。
 もっとも悲しかったのは、平日の昼前に訪れた太田さんの展覧会会場で出合った観客が3人。土曜の午後に訪れた柳さんが6人。
 もったいない、もったいない、もったいない。みんなこんな素晴らしい展覧会やってんだから見に行こうよ、と街で言いふらしたくなるほどの、中身と観客数とのギャップ。
 それぞれの美術館の方も広報は頑張っているだろうけど、どうしてこんなにお客が来ないのか。やっぱり僕ももっともっと頑張ろう。もっとお客さんが来て、もっとお客さんにこんな素晴らしさをわかってもらうために。
 それにしても、そんな状況の中で一日で千人単位で人を集める藤本由紀夫さんって凄いよな〜。
 後楽園での「ガーデン」でも感じたのですが、藤本さんやら大久保英治さんの手つきって、きりりと見栄を張って見せ場を作るタイプではなく、またそうしたアーティストが西日本に多いだけに、日頃関東にいて、そのような作品を見慣れてはいない方には、最初?かもしれませんが、ほんとに優れたアーティストです。
 ヴェネツィアでの藤本さんホントに楽しみ。と、ほとんどファン状態のコメントでした。 みなさま本年もよろしくお願いいたします。

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会場:西宮市大谷記念美術館
会期:2000年11月25日〜2001年1月14日
問い合わせ:Tel. 0798-33-0164
関連記事:
太田三郎『存在と日常』ワークショップ(CCGAにて)…大月ヒロ子(1999年7-8月合併号)

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