logo

Recommendation
北海道 吉崎元章
.


exhibition北の創造者たち2001「美術スル」見方

..

新明史子「おもひだしたこともないことを」
新明史子「おもひだしたこともないことを」

端聡「今から過去は変わり、未来は今によって」
端聡「今から過去は変わり、未来は今によって」

古幡靖「有島エロス」
古幡靖「有島エロス」

 北海道在住の若手・中堅の芸術家に作品により、北海道の美術のいまを紹介しようとする展覧会の8回目。おおよそ隔年で開催し、素材や作品傾向からテーマを設けて作家選定してきた。今回は20世紀末から21世紀にかけて開催されることもあり、これからの活躍が期待される若手中心のラインナップとなった。
 なかでも最も若い新明史子の作品は新鮮である。自分や家族などごく身近な人々を中心とした私的なできごとを本というかたちで綴っていく作品である。そのコンセプトは決して目新しいものではないが、彼女のセンスが光る素直な表現は好感が持てる。出品した3点のうち特に《おもひだしたこともないことを》に惹かれる。記憶に残っていないほど幼かったころの自分の写真の部分部分を拡大した画像を連ねて本に仕立てる。それは、一枚の写真から物語を紡ぎ出そうとする作業であり、本の最後に示される写真の全体像に至ったときには、見る者も共通の懐かしさをもって記憶を共有することになる。
 端聡は骨太の作品である。スペースの中央に陣取る三台の厳つい鉄の装置。各テーブルの中央にある二つの白い円形部分それぞれに別の顔が映し出され、声は聞こえないがなにか一生懸命に話している。そして、突然呼吸音が響き出したかと思うと、その画像は一文字ずつの文字にかわり、ようやく読めるスピードで変わっていく。「今」「、」「愛」「な」「ら」…。その白色のスクリーンは、上向きに埋め込まれたスピーカーに張られたミルク(乳)。人と人との絆やコミュニケーションについて深く考えさせる作品である。
 異色なのは、古幡靖である。展示室では、真っ白な壁面を利用し巨大な映像を映しだしたが、それ以外にも展示の場所を札幌芸術の森内に移築されている有島武郎旧邸に求めた。冬場は土日祝の午後だけの開館であるが、普段はあまり使われていない二階に七台のモニターを並べ、有島の『惜しみなく愛を奪う』を朗読する人の映像をコンピュータ加工し流している。全二十九章を毎週数章ずつ増やしていく計画で、朗読者はその建物を訪れた人などに無作為に依頼している。このために、彼はアパートを引き払い、札幌芸術の森内のアトリエに一家で引っ越してきた。約3ヶ月の会期中、冬の札幌芸術の森をいやと言うほど体験しながら、作品を生みだしていく。
 佐々木秀明の《雫に聴く》は、昨年石狩の廃校で発表した作品を発展させたものである。その幻想的な空間は人気が高く、スペース内のベンチに長く座っていく人も目立つ。
 その他にも、塑造彫刻における型どり作業がもつ意味合いを見つめ直す鴻上宏子や、鉄を素材に破壊と生成のダイナミズムを見せる川上りえ、ホチキス止めされたビニールで覆われた矩形から自由を考えさせる藤本和彦の作品などが並ぶ。
 サブタイトルとなっている<「美術スル」見方>とは、観覧者側にも積極的に作品に向かう姿勢を求めていこうとするものであり、そのために、作家へのインタビュービデオを会場で上映しているほか、各作家によるワークショップやトークなどを行い、作品への多角的なアプローチの手助けとしている。
 新しい世紀にふさわしい、新しい世代の活躍を予感させる展覧会である。
..
アーティスト:川上りえ、佐々木秀明、鴻上宏子、藤本和彦、新明史子、端聡、古幡靖
会期:2000年12月23日(日)〜2001年3月25日(日)
   9:45〜17:00、休館日=月曜日(祝日の場合翌日)
会場:芸術の森美術館 北海道札幌市南区芸術の森2丁目75
入場料:一般600円/高校・大学生300円/小・中学生120円
問い合わせ:Tel. 011-591-0090

top

report学芸員レポート [札幌芸術の森美術館]

..

 学芸員にとってフィールドワークは欠かせない仕事のひとつである。今回の「北の創造者たち2001」も日頃ギャラリーなどを回るなかで出会い、気に掛けていた作家たちである。物理的にすべてのギャラリーに毎回足を運べない現状から展覧会情報の収集が重要になるが、これまで新聞、タウン誌、そしてDMがその中心であり、なかなか充分なものとはいえなかった。
 そうしたなか12月中旬に強力な助っ人が登場した。梁井朗氏の北海道美術のホームページ「ほっかいどうあーとだいありー」である。彼は、数年前まで北海道新聞で美術担当の記者をしていたが、どういういきさつかは詳しく知らないが、社内異動のために紙面ではすっかりお目にかかれなくなっていた。一般的に賛美するだけの展評が多いなかで、時に痛烈な批判を交える彼の文章を楽しみにしていたが、とても残念に思っていた。その後、雑誌「てんぴょう」やミニコミ誌への寄稿も行っていたが、数ヶ月に一度の発表では満足できなくなったのか、くすぶっていた欲求を一気に爆発させるかのようにほぼ毎日更新のホームページを開設したのである。これがなかなか面白く、最近では僕の毎日欠かさない立ち寄り場所になっている。
 これまで北海道の美術についてのしっかりとしたホームページがなかったのは不思議なくらいであるが、とにかくがんばって続けてほしいものである。その日その日に見て回った展覧会の感想を中心に日記風に綴っているほか、展覧会評も随時加えているパワーには脱帽する。各画廊の最新情報もありがたい。
..
ほっかいどうあーとだいありー
URL:http://www5b.biglobe.ne.jp/~artnorth/

top

copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 2001