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福岡 川浪千鶴
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exhibitionVOCA展2001「現代美術の展望−新しい平面の作家たち」
出品作、和田愛語の「わたしは はなしたい やくそくよ なかないで またあそぼ あいごより なかよしへ」について

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「わたしは はなしたい やくそくよ なかないで またあそぼ あいごより なかよしへ」
「わたしは はなしたい やくそくよ なかないで またあそぼ あいごより なかよしへ」(アクリル・水彩・サインペン、紙・画布、ネオン管、安定器、スチール、Tシャツ、ぬいぐるみ、アクリル板)

 
さて、VOCA展も今回で8回目を迎えた。出品規定、推薦や賞制度など同展の在り方は当初から問題が指摘されており、その状態は今も何ら変わるものではないのだが、現代の絵画(最近は写真作品等の出品も多く、もともと「平面」展と名称にはうたっているが、いまなお同展は「絵画」展の性格が色濃いし、私自身も「絵画」展だと認識している)を条件づきにせよ概観できる展覧会は他にはないから、という消極的な理由でその命脈は保たれているように思われる。
 ここ数年の同展は作品の多様化が目に付くが、それと展覧会の充実は必ずしも比例していない。今年の出品作も受賞作も、技法やテーマの差はあっても、どれもがこじんまりとこぎれいで一様な印象を与える。そんな中、受賞作品中心の批評や報道ではほとんど話題にならなかったが、気になる1点があったことについて触れたい。
 福岡市在住の和田愛語さん、VOCA史上最年少の13歳の、重度の障碍をもつ少年の作品がそれだ。本人が両親の助けを借りながら、実際にアクリルやサインペンを手に、小さなスケッチブックに描いた3枚の絵(図版の左から順に、モチーフはお気に入りのヨット、ゴジラ、トトロ)。その3点を大きなキャンバスに忠実に引き伸ばして描き写し、愛語さんが文字盤を使って語った言葉と選んだ色でネオン管の作品をつくり、それらを彼が好きなTシャツやおもちゃなど身の回りの品々と組み合わせて、全体をひとつの作品として構成したのは、彼の父、「障碍(しょうがい)の美術」に携わる美術家和田千秋さんである(愛語さんのリハビリに明け暮れる生活、極私的なリアリティから生まれた「障碍の美術」について、和田さんはそれは美術家としての自身のリハビリであり、社会と遊離した「現代美術」のリハビリでもあると語っている)。
 つまりこの作品は、実際には親子のコラボレーションであり、なおかつ和田愛語さんの作品であり、さらには和田千秋さんの「障碍の美術」でもありうるのだ。
 しかし、VOCA展会場に、多くの現代作品とともに、若手作家和田愛語作として展示された作品は、彼らの日常や活動を垣間見続けた私でさえ、最も重要な「生」の部分が限りなく薄まって見えた。他と同様にきちんとした「現代美術」の枠組みに収まっているように見えた。これはかなり皮肉な結果だ。
 障碍児の作品ということや、親子二代でVOCA展に出品したなどの一過性のニュースソースではなく、「生」のリアリティやゆらぎによって、同展に一陣の風というか、長く残り広がる波紋をおこすことが和田千秋さんや推薦者の村田真さんの目論見でもあったはずだが……。VOCA展、恐るべし(追記:愛語さんのお母さんから伺ったところによれば、愛語さん自身はVOCA展について感想を尋ねても実に淡々としているとのこと。彼の冷静さにちょっと苦笑いがでた)。
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VOCA展 2001 現代美術の展望−新しい平面の作家たち
会期:2001年2月18日〜2月28日
会場:上野の森美術館  東京都台東区上野公園1-2
問い合わせ:Tel. 03-3833-4191
eventフォーラム「日本とタイの女性アーティスト:その感性と創造性」

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福岡アジア美術館の滞在研究者として、昨年来日本の女性アーティストの調査を行っているタイの美術研究者、ソンポーン・ロドポーンさんによって企画された同フォーラムは、久々に福岡に新鮮な風を吹き込んでくれた。それは春一番のようで、何かがこれから始まるのを待つのではなく、何かを始めたいといった気持ちをかきたててくれた。
 研究者としてのロドポーンさんや北原恵さんの態度も真剣で印象的だったが、3人のアーティストの組み合わせが巧みで、作家たちの真摯な言葉はそれぞれに忘れられない。
 従軍慰安婦問題などをテーマにした作品で知られる嶋田美子さんは、意外にも今回が福岡初登場。明快な語り口で、まず「なぜアジアで、女性がテーマなのか」とフォーラムや福岡アジア美術館という場の問題から明解に論を展開し、すこぶる小気味いい。戦争の記憶をめぐる自作を通じて、「いまさらではなく、いまから」、「個人個人の問題をどう政治化していくか」「作家の態度(attitude)こそが重要」と聴衆に切り込んでくる。
 自身の出産体験から生まれた「乳房」シリーズなどの魅力的な平面やとけてなくなるインスタレーション作品などを手がけるピナリー・サンピタックさんは、一見嶋田さんとは対照的。さまざまに変容する自作の一貫したテーマ、女性性の賛美とその両義性について丁寧で慎重な説明を行った。
 福岡市在住の彫刻家、知足院(ともたり)美加子さんは、山伏の家系に生まれ修験道の山で生活したり、海外青年協力隊員として中南米に滞在するなど幅広くて深い体験をもっており、強靭で繊細な精神の持ち主と見受けられた。自分が体験したことのない記憶の断片を拾い集め、つなげていく姿勢は嶋田さんと共通点が多い。特に近年のアイヌ民族差別問題への関心から生まれた「二風谷プロジェクト」の説明で、彼女にとって木や石を彫るという行為は記憶を自分に刻みこむことだということがよくわかった。それは彫刻作品の制作という表現というより、祈りに近い印象をもつ言葉だった(二風谷プロジェクト及び同フォーラムでの知足院さんの発言については、知足院さんのHPを、フォーラムの関連サイトについてはミュージアム・シティ・プロジェクトのHPを参照ください)。

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日時:2001年3月2日(金)18:00〜21:00
会場:あじびホール(福岡アジア美術館内)  福岡県福岡市博多区下川端町3番1号 博多リバレイン
招待アーティスト:嶋田美子(日本)、知足院美加子(日本)、ピナリー・サンピタック(タイ)
コメンテイター:北原恵(日本)
司会・進行:ソンポーン・ロドボーン(タイ)
問い合わせ:Tel. 092-714-8600

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report学芸員レポート [福岡県立美術館]

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茶室「如庵」1985年
茶室「如庵」1985年 中川幸夫

福岡県立美術館では、毎年受講者を募って美術講座を行っており、今年度は学芸員がそれぞれおすすめの作品を1点選び、それについて語るという方法をとっている。私は2月28日の6回目を担当したが、これが実はふたつの新たな試みに挑戦した、私的にはちょっと「記念的」なものだった。
 ひとつめの挑戦は、私の1点として、いけばな作家の中川幸夫さんが1985年に国宝の茶室「如庵」(犬山市の有楽苑)で生けた「花」を選んだこと。
 個の表現として長年花に立ち向かってきた中川さんは、私が最も尊敬するアーティストのひとりで、ここ数年その作品や活動を意識的に追っているが、「品格を備えた破格」の持ち主はあまりにも大きな存在で、いつまでもまとめることができずにいるので、今回はちょっと自分に発破をかける意味も大きかった。
 密室の、瞬間の芸術である「花」を中川さんは写真に残しており、それは中川さんの選び抜かれたただひとつの視点で成り立っている作品と、場とかかわる、パフォーマンスの要素が強い作品の大きく分けて二通りがある。レクチャーでは、中川さんの「古典に匹敵する絶対性と前衛性」に焦点をあてるために、後者の作品のなかから「如庵」を選んだ。
 信長の弟、織田有楽が建てた380年前の茶室「如庵」という空間は、何よりもそのモダンさ、現代性に驚かされる。その床の間に生けられた中川さんの「花」は、壁に折り曲げた芭蕉の葉を一枚掲げ、金箔をはった椰子の実をその下に置いただけの、一瞬のパフォーマンスだったが、如庵の空間の特性や桃山の時代精神と見事なほどに響きあっており、なおかつ未来を見据えた永遠の存在ともなっている。如庵や織田有楽と真剣勝負で対決した中川さんの態度や気迫が見る人を圧倒する、代表作のひとつといって間違いない。
 茶室「如庵」のさまざまな内部写真にせよ、中川さんの写真作品「如庵」にせよ、(もちろん他の中川作品も)なかなかいい状態のものをまとめて見ること(作品集にせよ、個展にせよ)は難しいので、今回は写真や印刷物をできる限り借用・収集し、画像には凝ってみた。これがふたつめの挑戦なのだが、画像取り込み、編集からプロジェクターを使ったレクチャーまで、まったくの初心者状態から約1週間で形にしたことになる。来年度は福岡の現代作家シリーズ「アートの現場」展の記録をCD-ROMで発行する予定なので、これも修行と突貫工事を決行した次第。
 ふたつの挑戦の結果としては、中川幸夫さんの理解者が増えたことと、ホームページ制作ソフトに少し習熟したことと、テクノストレスでお菓子を食べ過ぎて体重が増えたこと。最後を除いて、とりあえずめでたし、めでたし。
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