さて、VOCA展も今回で8回目を迎えた。出品規定、推薦や賞制度など同展の在り方は当初から問題が指摘されており、その状態は今も何ら変わるものではないのだが、現代の絵画(最近は写真作品等の出品も多く、もともと「平面」展と名称にはうたっているが、いまなお同展は「絵画」展の性格が色濃いし、私自身も「絵画」展だと認識している)を条件づきにせよ概観できる展覧会は他にはないから、という消極的な理由でその命脈は保たれているように思われる。
ここ数年の同展は作品の多様化が目に付くが、それと展覧会の充実は必ずしも比例していない。今年の出品作も受賞作も、技法やテーマの差はあっても、どれもがこじんまりとこぎれいで一様な印象を与える。そんな中、受賞作品中心の批評や報道ではほとんど話題にならなかったが、気になる1点があったことについて触れたい。
福岡市在住の和田愛語さん、VOCA史上最年少の13歳の、重度の障碍をもつ少年の作品がそれだ。本人が両親の助けを借りながら、実際にアクリルやサインペンを手に、小さなスケッチブックに描いた3枚の絵(図版の左から順に、モチーフはお気に入りのヨット、ゴジラ、トトロ)。その3点を大きなキャンバスに忠実に引き伸ばして描き写し、愛語さんが文字盤を使って語った言葉と選んだ色でネオン管の作品をつくり、それらを彼が好きなTシャツやおもちゃなど身の回りの品々と組み合わせて、全体をひとつの作品として構成したのは、彼の父、「障碍(しょうがい)の美術」に携わる美術家和田千秋さんである(愛語さんのリハビリに明け暮れる生活、極私的なリアリティから生まれた「障碍の美術」について、和田さんはそれは美術家としての自身のリハビリであり、社会と遊離した「現代美術」のリハビリでもあると語っている)。
つまりこの作品は、実際には親子のコラボレーションであり、なおかつ和田愛語さんの作品であり、さらには和田千秋さんの「障碍の美術」でもありうるのだ。
しかし、VOCA展会場に、多くの現代作品とともに、若手作家和田愛語作として展示された作品は、彼らの日常や活動を垣間見続けた私でさえ、最も重要な「生」の部分が限りなく薄まって見えた。他と同様にきちんとした「現代美術」の枠組みに収まっているように見えた。これはかなり皮肉な結果だ。
障碍児の作品ということや、親子二代でVOCA展に出品したなどの一過性のニュースソースではなく、「生」のリアリティやゆらぎによって、同展に一陣の風というか、長く残り広がる波紋をおこすことが和田千秋さんや推薦者の
村田真さんの目論見でもあったはずだが……。VOCA展、恐るべし(追記:愛語さんのお母さんから伺ったところによれば、愛語さん自身はVOCA展について感想を尋ねても実に淡々としているとのこと。彼の冷静さにちょっと苦笑いがでた)。