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福島 木戸英行
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exhibition折元立身:1972-2000展

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折元立身:1972-2000
 昨年夏に原美術館で開催された「折元立身−Art Mama + Bread Man」展を記憶している人も多いと思う。長いキャリアの割には、わが国の美術業界からほぼ等閑に付されてきたと言ってよい、彼の仕事を初めて本格的に紹介した点で文字通り画期的な展覧会だった。
 とくに、折元が今もっとも力を注ぐ「Art Mama」シリーズは圧巻だった。年老いて足が弱り、軽いアルツハイマーと、多量の薬を長年服用しつづけた副作用による鬱病と難聴に悩まされる母親と、彼女を介護する作家自身の日常をテーマにしたこの作品は、しかし、テーマの重さとは裏腹にあくまであっけらかんとしたユーモアに溢れ、「逆境」にあっても衰えることのない作家の制作に対するバイタリティと、その逆境を逆手にとるしたたかさ、それに協力を惜しまない母親の愛情、二人の生活と折元の制作活動を暖かく見守りサポートする、「ゲンダイビジュツ」とはまったく無縁な近所の人々の姿は、まさに見る者すべてを勇気づけるものだった。
 CCGAで今夏開催する本展は、原美術館展が折元の現在を伝える内容だったのに対して、今までまとまって見る機会のなかった彼の仕事の全貌をダイジェストで紹介しようというミニ回顧展である。
 展覧会は、1970年代初頭にニューヨークでフルクサスに参加することで始まる彼のキャリアを、作家自身の手による、パフォーマンスの記録写真、ビデオ、イベントの告知チラシ、ポスター、葉書、実際にパフォーマンスに使用したオブジェなどで構成される。
 
折元立身「Art Mama」
折元立身「Art Mama」
(C) Tatsumi Orimoto, 2001
 ヨーゼフ・ボイスを思い出すまでもなく、優れたパフォーマンス・アーティストは、同時に卓越した造形作家でもあることが多い。折元の場合、それはとりわけポスターや写真などのグラフィック・ワークに発揮されている。パフォーマンス・アーティストである彼が、グラフィック・ワークに情熱を傾けてきたのは、「Art Mama」のように写真やビデオが作品の最終的な発表形態である場合もあるが、多くは、これらの制作物が、不遇時代が長かった折元にとって自らの存在を世間に知らせる唯一のコミュニケーション・ツールであったからだ。本来は画廊や美術館が作家をプロモートすべきところを、そうしたものに縁がない作家は自ら自費で作りつづけるしかなかったのである。
  自らの存在を他者に知らせ、認めさせることへの強い欲求、それは、とりもなおさず、現代美術のフィールドで成功し名声を得ることに対する願望そのものなのだが、そうした願望を不純であると片付けることはもちろんできない。結局のところそれは原初的で人間的な本能なのであり、こうした普遍的なコミュニケーションへの欲求自体が、じつは、30年間に制作された折元のあらゆる作品に通底するテーマであったことを忘れてはいけないだろう。
 折元の代表作のひとつ、頭にたくさんのパンを括りつけた奇妙な姿で街中に出没する「パン人間」パフォーマンスは、まさに異質な他者との間に横たわるコミュニケーション・ギャップの問題をカリカチュアライズしてみせる作品だが、愛を求めてさまようエレファント・マンさながらに異形の姿を観衆の前にさらけだすパン人間は、そのまま、異質な他者としての折元とわが国の現代美術業界との関係を投影し、同時に、当の現代美術業界と社会との関係、あるいは日本と世界との関係など、コミュニケーションの断絶に苦しむすべての「他者」を象徴しているのである。
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会場:CCGA現代グラフィックアートセンター  福島県須賀川市塩田宮田1
会期:2001年5月19日(土)〜7月28日(土)
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:45まで)
入場料:一般300円/学生200円/小学生以下、65才以上、身体障害者は無料
問い合わせ:Tel. 0248-79-4811

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report学芸員レポート [CCGA現代グラフィックアートセンター]

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 5月19日からCCGAで個展が始まる折元立身氏だが、今年はヴェネツィア・ビエンナーレ、アペルト部門への参加も決まっている。2月に氏の元にハラルド・ゼーマン直筆の招聘状が届いたときには、我がことのように喜んだ。しかし、折元氏からその後の話を聞いて愕然とした。
 「晴れ舞台」に臨むには、出品作品を用意し、同行するアシスタントや現地での展示スタッフ手配など、相応にお金がかかる。ところが、当のビエンナーレ事務局からは、作品輸送費と、オープニング・パーティーに出席するための作家一人分の旅費しか支給されないのである。不足分は、本来なら国際交流基金などが援助すべきだと思うのだが、過去のアペルト部門参加者に対しても、そういう前例はないらしい。あとは作家自らが適当なスポンサーを探すか、自己負担するしかないが、この不況下に簡単にいくはずもない。
  日頃、経済的にあまりに冷遇されつづけている日本の作家たちの状況と、その状況に無関心を決め込むばかりか、ややもすればそれを利用するかのように、作家負担を前提にした展覧会企画が横行する現状に心を痛めてきたが、どうやらそれは日本だけのことではなく、あろうことかヴェネツィア・ビエンナーレですらそうだったのである。
 折元氏の件に関しては、偶然とはいえ、同時期に展覧会を開催することになった者として、ぼくたちも微力ながらサポートしたいと思っている。しかし、折元氏に限らず、日本の作家が安心してヴェネツィア・ビエンナーレに参加できるようになる日はいったいいつになったら来るのだろうか?
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第49回ヴェネツィア・ビエンナーレ
会場:イタリア、ヴェネツィア カステロ・ガーデンおよびアルセナーレにて
会期:2001年6月10日〜11月4日
公式サイト:http://www.labiennaledivenezia.net/

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