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Art Watch Index - Oct. 8, 1996


【《東アジアMANGA原画展》レポート
 日本マンガの東アジアへの影響】
 ………………● 呉 智英


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《東アジアMANGA原画展》
会場:
いわき市立美術館
会期:
1996年
9月1日〜9月29日
問い合わせ:
いわき事務局
Tel. 0246-22-7416
いわき市立美術館
Tel. 0246-25-1111
Lin Min

林敏(中国)

Lee Jaehak

李載学(韓国)

Ma Wingsing

馬栄成(香港)

Yu Sulan

游素蘭(台湾)






いわき明星大学
Iwaki Meisei University Home Index
http://www.iwakimu.ac.jp/

《東アジアMANGA原画展》レポート
日本マンガの東アジアへの影響

●呉 智英



9月1日から一箇月間、東アジアMANGAサミット'96の中核企画として、福島県いわき市立美術館で東アジアMANGA 原画展が開かれた。
  同サミットは、東京会場でも期間中の3日間シンポジウムやサイン会などが催されたが、いわき市ではこの原画展の他、いわき明星大学でMANGAカレッジとして市民ギャラリーやシンポジウムが開かれ、いわき会場の方が同サミットの中心であった。会期中いわきに行き、これを見学してきた。以下報告・論評してみよう。
  いわき市立美術館は、もともと現代美術、とりわけポップ・アートを中心に作品を収蔵しており、今回ここに1300枚ものマンガ原画が展示されるにふさわしい美術館だと言えよう。来館客も親子連れなどが多く、語の本来の意味でのポップ・アートの展覧会になっていた。

長篇マンガ展示のむつかしさ

しかし、内容についてはこれからの課題がいくつかあるように思えた。
  原画展で展示されたのは、支那、台湾、香港、韓国の東アジア四箇国(四地域)のマンガ家210人、日本のマンガ家100人、計310人の原画である。そのどれもがストーリーマンガであり、新聞の風刺マンガなどに見られる一枚ものではない。これまで国際的なマンガ展といえば、ほとんどが一枚ものの展覧会であったことを思えば、時代の変化が感じられる。日本でもストーリーマンガが一枚ものマンガを圧倒して盛んなように、東アジア諸国でもストーリーマンガが若者や子供たちを中心に人気を誇るようになっている。
  こうしたマンガの現状や略史は、各国ごとに説明文がパネル掲示され、一応はわかるようになっているのだが、文章だけではなくこれを図版入りで説明すれば、さらに理解を深めたであろう。そういった点より、さらにもどかしさを感じたのは、ストーリーマンガの長篇を1枚か2枚の原画で代表させることである。その作品をすでに読んでいるのでなければ、原画だけ1、2枚見せられても面白さは伝わってこない。一枚ものや四コマものなら可能なことが、ストーリーマンガでは本質的にむつかしい。将来、この種のマンガ展がふえるだろうが、工夫を要する点である。

日本マンガの影響の大きさ

さて、東アジア諸国のマンガ原画をこれほど大量に見るのは私もはじめてだが、一言で印象を言えば、日本マンガの影響の大きさである。今回展示された作品は、悪名高い海賊版や山賊版(韓国では、人気キャラクターを盗用して別の話を勝手に作ったものを“山賊版”と俗称するらしい)はもちろんなく、全部オリジナルである。しかし、大友克洋、板橋しゅうほう、江口寿史、神田たけ志、鳥山明らの画風に似た作品をかなり見受けた。日本でも新人マンガ家が尊敬する先輩の画風の影響を受けることが多いように、このことは別段とがめられるべきことではない。むしろ、日本で特異な発展を遂げた表現形式であるマンガが、広く海外でも人気が出ていることは喜ばしい。
  興味深いのは、作家の影響に文化の差が感じられることだ。水木しげる、楳図かずお、つげ義春、永島慎二、といった日本では熱心な読者を持つマンガ家の影響はどこにもないようだ。また、ギャグ作家の影響も見当たらなかった。
  以上のことは、香港、台湾、韓国の作品について言えることで、支那は少し事情がちがっている。社会主義体制のため、日本からマンガが入ることもきわめて少なく、また表現規制もあるためだろう。総じて、絵もコマ展開も古めかしい。
  いわき明星大学の会場も覗いてみた。市の中心から遠く離れた場所にあるため、さほどにぎわいは見せていなかった。それでも、岡田斗司夫、唐沢俊一らのオタク・アニメのトークショーには50人ほどの観客が集まり、オタッキーな話に笑い転げていた。

[くれ ともふさ/評論家]

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