Sep. 10, 1996 | Sep. 24, 1996 |
Art Watch Index - Sep. 17, 1996
【マンションの「甘さ」を巡る建築の戦略 ―パティオス11番街/スティーヴン・ホール】 ………………●塚本由晴
【「無為」ということ―黒沢美香と『偶然の果実』 】
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写真:久野靖広
スティーヴン・ホール http://www.walrus.com/~sha/
ハウステンボス
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マンションの「甘さ」を巡る建築の戦略 ●塚本由晴
デヴェロッパーの要望と建築家のデザイン
幕張新都心の住宅地区、幕張ベイタウンは、千葉県の企業庁の呼びかけの下に複数の民間デヴェロッパーがグループを組んで取り組む、官民一体となって進められている新都市開発計画である。その第二期分のなかにスティーヴン・ホールというニューヨークの建築家が設計したパティオス11番街はある。この建物は非常に評判が良い。しかし、私は少しひねくれてた態度をとらざるをえない。というのは第一期において、私は松永安光と坂本一成によるパティオス4番街の設計に坂本側の担当者として取り組み、この地区の計画から良かれ悪しかれ色々なことを学んだからである。 建築家の置かれた立場を描き出す建築
これまでの日本の建築界では、この「甘さ」を受け入れるか、それに抵抗するかという一線が、建築家の作家としての立場を計るうえである程度有効であった(例えば、商業的建築家という言い方は今でも十分軽蔑的なニュアンスを含んでいる)。 [つかもと よしはる/建築家]
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偶然の果実 第26回 《花肉氣象鎖國》
写真:Mika 'Taro' SHIRAIWA
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「無為」ということ ●桜井圭介
しなやかなダンスのために、意図される「無為」 ダンスは「硬い」のと「しなやか」なのでは「しなやか」のほうがよい、ということは間違いないのだが、ごく稀にもうひとつ別の「質」がある。それが「しなやかさ」の「上」をいくのか「横」にあるのかは難しい。そして「それ」は、何と形容すべきか、いわく言い難いものだ。たとえばグルーチョ・マルクス、『パルプ・フィクション』でツイストを踊るジョン・トラボルタ、そして黒沢美香。「それ」は全く力の抜け切ったもので、“一見”「いいかげん」な、「なげやり」な、「だらしない」ものと見えてしまうだろう。しかし“二見”すると、驚くべき事態が「それ」の上(身体上、パフォーマンス上、空間上、そして私の上)に起こっているのだ。「振り(Coreographie)」としての「ダンス」を踊ること(それだと「こわばる」。何故なら「振りをする者」はこわばるに決まっている)でもなく、「ただ在ること」として、何もしないことでもなく、そしてその中間の、可能な限り「ダンス」に寄り添うこと(「しなやか」のレヴェル)でもない。「それ」は「それ」自体が「ダンス」であるとでもいうべき事態だ。ダンサー=ダンス、パフォーマンス=ダンス、空間(ダンサーと私の)=ダンス、時間(私とダンサーの)=ダンス、である「それ」。「しなやか」であるためには「無心」でなければならないとして、おそらく「それ」であるためにはさらに、「無為」であらねばならないだろう。ただ、問題は完全な「無為」が意図的に(システムによって、あるは修行によって?)可能なものなのかどうか、ということだろう。 「無為」の探求 定刻の15分前に会場に入る。客電状態。タオルを首にかけ、稽古着姿のダンサーたちがステージの四方を囲んで床に座りこんでいる。センターにひとり、立って身体を動かしている者もいるが、他はストレッチをしたり、シャツの下にタオルを入れ汗を拭いたりしている。やがて客電が消えドアが閉められたので“一応は”そこからが「本番」、ということになるのだろうが、ステージ内の状況や、ダンサーたちの状態には見事に「前後の差」がない。パフォーマンスは、順番にソロで踊る、自分の番がまわってきたら各自用意したテレコとテープで1曲ずつ踊るというもので、どこか高校生のカラオケ・パーティのように事態が進展する。カラオケも自分の部屋でする状態と「大会」でするのでは、「無為」の度合が違うだろうが、今日び、子供が特に人前で歌うこと自体に自意識が入らないことは、電車でブラッシングとか路チューをみればわかる。この「ダンス公演」でも、それと同じようなダンスが、つまり自分の部屋で音楽をかけてたら自然と腰が動いた的なダンスが、衆人環視のもと何回かは、成立していた。それが“偶然の”果実に過ぎないのかどうか。当日の参加者で、黒沢を別にすると、プロのダンサーではなく、「素人さん」のほうに、よりダンシーなものが感じられたのが気になる。だが「無為」の探究は無駄ではない。ぜひとも必要なのだ。あなたが(わたしが)、ダンスを、いまなお、必要とするならば。
[さくらい けいすけ/ミュージシャン]
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