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ArtDiary ||| 村田 真のアート日記
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1月24日(土)

明日から沖縄に行くので、その予習としてアートガーデンかわさきで開かれている「沖縄現代美術1998」を見に行く。出品作家はいずれも30〜40代の沖縄出身者だけど、今は本土や国外で暮らしている人が多い。作品は絵画、彫刻、インスタレーション、映像とバラエティに富み、方向性も多様で、展覧会全体の焦点(たとえば「沖縄らしさ」とか)を結びにくい。企画意図もそこらへんにあるようで、沖縄という「背景」の中に「個」のありかを探るのが目的のようだ。それにしても会場にいる間、ほかの観客にはひとりも会わなかった。
 川崎から、画家の額田宣彦氏の取材のためイッキに東大和へ。さすがトトロの森、気温もイッキに下がる。スタジオで話を聞いて、仕事場に戻ったらもう夜。また徹夜。

1月25日(日)

明け方うちに帰って仮眠して、羽田に向かう。沖縄へは4回目だが、今回は県立芸大の特別講義。早めに行こうとタクシーで浜松町まで飛ばしたら、途中マラソン集団に足止めを食らう。そういえばさっきテレビで中継してたっけ。浜松町でチェックインしたら、前方右の窓側の席が取れた。今日は晴天なので、日本列島のパノラマを堪能できそう。
 離陸後、早くも東京湾上空から富士山はもちろん、南アルプスの連峰まで見える。伊豆半島、紀伊半島を通過し、霧島や桜島を眼下に見下ろす。なんと、宮崎や鹿児島も雪景色だ。しばらく居眠りして目覚めると、ちょうど名護市上空。辺野古の海も見える。本島の南半分をグルッと回って那覇に到着。
 空港には県立芸大の田中睦治助教授が迎えに来てくれていた。田中氏は東京芸大で川俣正らと同級で、80年前後にはお椀状のオブジェを並べた奇妙なインスタレーションを発表してたけど、長らく予備校の先生にハマって、昨年沖縄芸大に赴任してきたばかり。彼の車でいったんホテルに寄って荷物を置き、首里城と隣接する芸大の横を抜け、さっき機上から眺めた島の南端をドライヴする。
 最初に行ったのが斎場御嶽。御嶽(ウタキ)とはノロと呼ばれる巫女が祈る霊場のことで、なかでも斎場御嶽は一番神秘的な場所。ちなみに沖縄ではeとoの発音がないので、御嶽もウタキとなる。次に知念城跡。城(グスク)は琉球王朝時代にあちこちに建てられていたが、戦災でほとんど破壊され、今は城壁くらいしか残ってない。こうした御嶽や城が島の南側に多いのは、沖縄人が南海からやって来たという伝説や、普陀落浄土の信仰とも関係があるのかもしれない。
 那覇市内に出て、家庭的な沖縄料理店へ。泡盛も1杯、いや2杯。

1月26日(月)

朝9時半、田中氏と助手の知花氏がホテルに出迎え。車で芸大に行って、午後からの講義の準備をすませ、学内見学。1月だっちゅーのに日差しが強く、暑いくらい。知花氏の車で近くの玉陵(タマウドゥン)と金城御嶽を見に行く。。
 講義は「世界の美術は今」と称して、昨年の国際展のことを2時間ほど話す。田中氏の要望とはいえ、古いネタで恐縮っす。田中氏は「ここの学生はおとなしいから質問は出ないと思う」といってたけど、彼自身が最初に質問してから次々にスルドイ質問が飛んできた。私語もなく、本土の学生より熱心な印象だ。だいたい沖縄では美術より音楽のほうが盛んだし、美術でも絵画より工芸のほうが伝統あるジャンルだ。だからこそ、とりわけ現代美術が発展する余地があるし、そのモチベーションにはこと欠かないと思う。
 学務室に学生や先生が20人ほど集まって打ち上げ。その後、近所の飲み屋でしたたか飲み、記憶喪失。

1月27日(火)

二日酔いにもめげず、田中氏の車で普天間、嘉手納基地を横目に北上し、読谷村へ。ここの村長が大田知事に請われて県庁入りしたのは記憶に新しい。なかなかの知恵者らしく、村道に憲法第9条を掲げていたりする。象のオリやその下に通じるガマ(洞穴)を見る。ガマは戦争末期、上陸した米軍から逃れるための避難所にもなった場所。助手の知花氏のお父さんもこのガマに1週間隠れていたそうだ。読谷村には知花姓が多い。
 漁港の食堂でミソだれ刺身定食というのを食う。はっきりいって刺身はうまくないのでミソだれにしたって感じ。小高い丘の上の座喜味城跡へ。ここも城壁しか残ってない、というより城壁だけ再建したというべきか。それほど破壊し尽くされた場所なのだ。しかし石積みの城壁はなぜかアイルランドあたりの城を思わせる風情だ。村立博物館を見て、那覇空港へ。

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