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ArtDiary ||| 村田 真のアート日記
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9月6日(土)

渋谷区松涛美術館へ「20世紀の中国絵画展」を見に行く。南京市にある江蘇省美術館の所蔵作品のうち100点を展示。といっても油絵なんかはなく、水墨によるいわゆる中国画(あちらでは国画)ばかり。
 20世紀の中国というと、辛亥革命から日中戦争、中華人民共和国の成立、文化大革命、そして最近の改革開放政策まで、まさに激動と呼ぶしかないが、絵のほうはそれほど極端に変わったわけじゃない。やっぱ日本画と同じく、中国画にも伝統の意地ってもんがあるわけね。だけどよく見ると、文革の始まる60年代には、煙の立つ工場や銃を持つ女民兵などが描かれて、ちょっと社会主義してるし、最近の作品では、漫画のようなデフォルメやイラストみたいな甘っちょろさが目について、なかなか興味深い。
 しかしなんといっても注目なのは、呉冠中の「叢林雪山」という作品。黒い墨跡が画面いっぱいに広がり、黄、緑、赤の絵の具が滴っていて、これはどう見てもポロック。かろうじて画面の奥から雪山らしき白い稜線が浮かび上がり、黒い線が叢林を表していることが判別できるんだけど……きっと作者はアクション・ペインティングしたかったんだけど、それをやっちゃ画壇から追放されるかもしれないんで、いちおう風景画ってことで言い逃れたんじゃないかしら。あるいは、ポロックをパクッたアプロプリエーション・アートのつもりだったりして。とにかく、同時期に同じ渋谷で開かれていた「チャイナ・ナウ」展と比べるとおもしろい。

9月11日(木)

新宿の安田火災東郷青児美術館で「ゴッホとその時代」展のプレス・プレビュー。93年から毎年テーマを決めて開かれ、最終回の今年のテーマは「ゴッホと四季」。話題は、なんつっても最晩年の「烏の群れ飛ぶ麦畑」が出品されること。
 思えば30年前、ゴッホの伝記(嘉門安雄著、いまの東京都現代美術館のカンチョーさんね)を読んで以来、「わだばゴッホになる」と勘違いした少年が見たくてたまらなかった作品がコレなのだ。実際に見たのはそれから15年後、すっかりゴッホへの関心が薄らいだ青年時代。「こんなに小さかったのか」というのが正直な感想だった。それからさらに15年後の中年の目には、やっぱり小さかった。
 記者会見では、やっぱり出た。「安田火災の『ひまわり』はホンモノか」という質問が。聞いたのは朝日新聞記者の大西若人氏。これに対して、同席していたゴッホ美術館のキュレーターが、「贋作説が出ているのは前の所有者が怪しいからで、本物かどうかは絵自体で語られるべき」としながらも、「贋作だったらだれが描いたかがわからなければならないが、ゴッホ以外の者が描いたという証拠はない」と、なんだか消極的。でも、「個人の意見だが」と断りつつ、しっかり贋作説を否定していた。結局「ひまわり」は、本家ゴッホ美術館のお墨付きを得たってわけ。

9月18日(木)

P3で始まったインゴ・ギュンターの「ワールド・プロセッサー97」のオープニングへ。人口問題、環境汚染など世界情勢を描いた発光地球儀が並ぶ。なんだ、以前見たヤツと同じじゃねーかと思ったら、97年の最新版らしい。なるほど、同じネタで4〜5年に1度ヴァージョンアップしていくわけね。これはいいかも。

9月19日(金)

展覧会にはなるべくオープニングに行くようにしている。いち早く見られるから……というのは理由の半分以下で、本当に作品を見たければオープニングは避けなければならない。なぜなら人が多いし、特にギョーカイ関係者がうようよいて、作品見るよりアイサツしに行くようなもんだから。そのまま2次会に飲みに行くこともあるけど、それがオープニングに行く理由ではない。いや、たまにはそれが理由の時もないとはいいませんが。そうではなく、オープニングに行く最大の理由は(美術館の場合だが)、カタログがもらえること、これに尽きる。
 ぼくがカタログを買うようになったのは、高校生の頃だから70年代の初頭。当時のカタログは500〜600円くらいだった。まだオイルショックの前だから、物価は今の4〜5分の1程度。国電(よよ!)の初乗りが30円だったもんね。71年に西洋美術館で「ゴヤ展」が開かれた時、カタログが800円もして、びっくらこいたことを覚えてる。今なら3000〜4000円てとこか。当時のカタログはサイズが小さくて、まだカラーページも少なく、しかも印刷がよくないから、今のほうが割安感がある。とはいえ、年に100も200も展覧会を見る者にとって、もちろんそのすべてのカタログを買うわけではないにしても、カタログ代はかなりの負担になるものだ。今、うちには2000冊近くあるけど、1冊2000円としても400万円近い。たいへんな出費だ。
 だから今日も、東京都現代美術館の「ポンピドー・コレクション展」オープニングへ。
 今回は、ポンピドー・センターが改修工事に入ったため、ふだんは常設展示されてるコレクションの貸し出しが可能になって実現したという。そういえば、「MOMA展」の時も「バーンズ・コレクション展」の時も、改修工事でごっそり貸し出されたんだっけ。なんか火事場泥棒みたいだけど、さすがにいい作品が来ている。ドランもいいしマルケもいい。もちろんマティスもいい。エルンストもマッソンもバルテュスもいい。ティンゲリーとデュビュッフェには驚いた。
 展示は3フロア全体を使っていて、ゆったりしてる。朝日新聞企画部の帯金章郎氏によると、目標入場者数は20万人。それ以上入ることを見越した余裕の展示なので、それ以下だと間が抜けてしまいそうだ。もし20万人も来なかったら……それは内容の問題ではなく、東京都現代美術館の場所の問題だと帯金氏はいってますぜ。
 今回はカタログもいい。とおりいっぺんのアイサツや作品紹介に終わるのではなく、コレクションの歴史や展示についての論考もあって、特に関直子学芸員による「コレクションの展示とキャプションをめぐって」が示唆的。これをタダでいただけるんだから、やっぱりオープニングはやめられませんなー。 

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