愛する妻と「ヨーロッパ拷問展」を見に、明治大学刑事博物館へ。この春から開かれているロングランの展覧会だが、いつもの悪いクセで終了間際に駆け込む。マスコミでも取り上げられ話題になったせいか、若いカップルや家族連れでけっこう混雑している。ディズニーランドじゃねーぞ。 今月開館したばかりの新津市美術館へ、文殊の知恵熱の公演「トラベリング◎リングズ」を見に行く。新津市は、新潟駅から信越本線で15分ほど戻ったところの、人口7万人弱の街。美術館はその新津駅からさらにタクシーで15分ほど走った丘陵地帯にポツンと建っている。タクシーの運ちゃんによれば、この美術館の周辺は来年新潟で開かれる「花博」のサブ会場になるのだそうだ。 新潟県で石油が採れることは小学校で習ったが、その産油地のひとつが新津市だとは知らなかった。といってもこの春に閉山したばかりだが。で、この近くに温泉があるのだが、その温泉が石油くさいというウソみたいな話を聞き、さっそく文殊の知恵熱や新川貴詩君たちと出かける。
ArtDiary ||| 村田 真のアート日記
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10月10日(金)
会場には、よくもこれだけ考えついたな的な拷問道具が並ぶ。たとえば、逆さ吊りにした人間の股間を引くノコギリ。頭が下にあるため血が脳に通い、ノコが胸に達するまで意識を失わないのでとてもイタイの。でも、観客の反応は新種のSM器具でも眺めるようなノリ。もともとこの展覧会は、死刑を含めた拷問に反対する人権保護団体による巡回展なのだが、主催者の意図とは逆に、これから拷問がブームになったりして。
10月18日(土)
ここの館長はとっても気さくな人で、名刺をもらったら「横山正」とある。あれ? この人ひょっとして東大のセンセで、デュシャンの「大ガラス」の東京ヴァージョンを監修した遠近法の研究者じゃなかったっけ、と思ったら、はたしてそうでした。で、スゴイのは、美術館の設計をはじめロゴマークからミュージアムショップの品揃えまで、すべて横山館長が手がけてること。その多芸多才ぶりもさることながら、まず建物を建てて学芸員を決め、最後に館長を呼んでくる日本の美術館行政の逆を行ってるのが驚きだ。いや、正しい道を行ってるのだから驚いてはいけないのだが。
で、文殊の知恵熱。とうじ魔とうじ(特殊音楽家)、松本秋則(不思議美術家)、村田青朔(元舞踏演芸家)というアヤシイ3人男のグループだ。彼らは光や音、身体を使ってパフォーマンスを繰り広げるのだが、ダムタイプみたいな洗練されたそれではなく、ナベ、カマ、豆電球などチープで生活臭の漂う素材を活用し、小学生の理科の実験程度の物理現象を応用した無言のドタバタ劇なのだ。ちなみに、彼らを美術館に呼んだ学芸員の東護さんは、日鉱ギャラリーの元ディレクター。
パフォーマンスは美術館のロビーから始まり、展示室、アトリウム、テラス、野外劇場と館外にまで進出、観客もそれに従ってぞろぞろ移動する。今回も相変わらず貧乏くさいアイディアでいっぱいだが、行動範囲を広げすぎたせいか、それともサポート態勢が整いすぎたせいか、見る者を脱臼させるようなアソビに欠け、パフォーマーと観客との間に濃密な空間を形成するにはいたらなかった。特に屋外での豆電球を使った光のリングは、貧乏くさいファンティリュージョンって感じで、子供の嬌声がなければ失笑か涙を誘ったことだろう。
市内の寿司屋で飲んで、研修センターみたいな合宿所に泊めてもらう。
10月19日(日)
感動的な温泉だった。バラックを継ぎ足したような建物で、受付のジーチャンバーチャンが真っ昼間なのに酒を飲みくさってる。浴場はふつうの銭湯よりも小っちゃくて汚く、そして、ホントに石油くさいのだ。早々に湯から出て大広間へ。ここがまたスゴイ。ジーチャンバーチャンが20人ほど好きずきにメシ食ったり酒飲んだりしてるのだが、ひとりのジーチャンが演歌のテープを流し、舞台に登って踊り始めた。すると和服に着替えたバーチャンも踊り始める。ほとんどヨイヨイの世界っつーかパラダイスっつーか、見てはいけないあの世をかいま見る思いがした。文殊の知恵熱もきっといい勉強になったはずだ。
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