feature
feature ||| 特集
home
home
関西特集トピックス−2

漂流教室:子供たちのためのワークショップ(京都国立近代美術館)
「美術館におけるワークショップ」
原 久子


ークショップという言葉がさまざまなところで使われている。美術館の教育普及活動においても、この言葉を聞くことが少なくない。京都国立近代美術館でも「漂流教室:子供たちのためのワークショップ」というプログラムが97年7月4日から8月29日までの期間にオリエンテーション2回と補講を含めて延べ14回にわたって行なわれた。「美術館のコレクションで展覧会を創ろう」というこの企画に参加したのは、京都教育大学教育学部付属桃山中学の有志18人だった。
このワークショップを担当した京都国立近代美術館主任研究官の河本信治氏は、美術館の存在理由を問う一つの試みとして、この企画に挑んだようにみえた。彼が96年に企画をした「プロジェクト・フォー・サバイバル」という展覧会をご覧になった方には、説明の必要がほとんどないかもしれないが、美術館の存在それ自体を自ら問うようなあの展覧会のかたちを変えた続編ともいうべきものだったように思った。
講師には環境ジャーナリストのアイリーン・スミス氏、アーティストの森村泰昌氏、椿昇氏、デザイナーの西岡勉氏、そして滋賀県立近代美術館学芸員の平田健生氏をむかえて進められた。ワークショップ期間中、何度か取材に出かけた。その際に講師をつとめていた椿氏は、私立の女子中高の教員でもあるのだが、かなり型破りで、生徒をひきつける力は、カリスマ性をも感じる。彼の口からは、どんどん皆を導くキーワードが出てくる。決して、何かを教えるといったふうではなく、参加者たちを刺激していく。テキストにそくして結論を教えようというような態度ではなく、彼らに自分で答えを見つけさせるように仕向けていく。

集合写真
展覧会風景
18人の中学生達は、誰かに強いられてこのワークショップに参加しているのではなく、自分の意志で集まっていた。展示会場では、それぞれの展覧会プランを練ろうと、「館所蔵世界の近代写真(1)/写真の誕生から現代まで」を真剣に観ている。講義室では、ポラロイドやデジタルカメラなどさまざまなカメラを用いて自分たちで写真を撮ったり、美術館側で用意した写真にかかわる参考図書等を読んだりしている。
写真とは、彼らにとっていったい何なのだろう。とにかく、彼らがどんな切り口から写真にぶつかろうとしているのか、興味深かった。所蔵品目録に載っているが、会場には展示されていないものを出品したいと選んだ子がいた。ワークショップ参加者のどんな要求にも可能な限り応えると言った河本氏は、収蔵庫からその作品を出してきてくれた。意気盛んな中学生たちは、テーマに自分の興味のあるものとして、競争馬、AIR MAX by NIKEなど、とても常識の範囲では考えられないようなものをあげていた。あるいは、自分で創った物語に即して展示していくプランなど、それぞれの個性を十分に出していた。キュレーションする立場より、作品を創る立場に興味をもった一人の女生徒は、自分で撮った写真を展示した(そのなかには、何を隠そう『原さん、無意識の行動』と題された熊のように動く私を追った連続写真まで出品されていた)。
テキストも自分たちで書いた。だれの言葉を借りたのでもない瑞々しさに好感がもてた。曖昧な表現をしてはいけないと諭されて、書き直しをする姿は、一つの物事を完成させようというプロセスでは当然のことながら、熱いものを感じた。河本氏は、ここでやろうとしているのは「思考のトレーニング」だと言っていた。それは言葉をかえれば「生き抜くためのトレーニング」でもあると。14歳の18人の中学生たち、ワークショップの対象はここに据えられた。まるでやってはいけないことのように、相手の殻を破って入り込んでみることすらしない今どきの悲惨なディスコミュニケーション。みんな遠巻きに相手の出方をじっとながめている。そんな姿は子どもたちだけに言えることではない。殻を自分で破らせることが出来れば、どんどん世界を広げていける、と椿氏は語ってくれた。

展覧会をみている 作業中 作業中
そして、9月2日には、「漂流教室:イメージの図書館から―館所蔵世界の近代写真(2):中学生18人が創る18の展覧会」(〜97年10月19日)は立派に開幕した。18人の中学生のなかのさらに有志が、夏休みが終わり学校へ戻ってからも、課外活動として集まりをもっていると聞く。このワークショップは、優れた資質をもった中学生たちが参加したことや、講師陣、所蔵品などが、幸いにも整って成功をおさめた。他館には、その条件にあったプログラムがあると思う。しかし、美術館のワークショップというものについて、美術館関係者も参加する立場の人も、考えるよい機会となったのではないかと思った。

ワークショップ風景 ワークショップ風景

関西特集トップ 展示風景

top
feature目次feature review目次review interview目次interview photo gallery目次photo gallery




Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1998