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関西特集トピックス−1
地域社会とアート
「モダン de 平野」――3年目の問題
塚村真美(ニコニコ・アート倶楽部部長)


3というのはむずかしい数である。3号雑誌は第3号で終わる雑誌。三代目はとかく身上をつぶすものと相場が決まっている。OLは3日もったら3か月は大丈夫、3か月もったら3年は大丈夫などといわれる。三年目の浮気なんて歌もある。大阪市平野区で夏に行なわれる「モダンde 平野」というイベントも、今年で3回め。数字3のマジックはここでもじわじわと効いてきているようだ。

「モダンde 平野」は「芸術と環境」をテーマに「町はアート――町を視る・聴く・話す」と題し、町とアートがかかわることで、町を見せるプロジェクトだ。舞台となる町は、平野区の中でも旧平野郷にあたる区域。近世に環濠自治都市として栄えた町である。一昨年、この町・平野に住むアーティスト・樋口よう子さんが中心となり、「モダンde平野」が催されることとなった。

樋口よう子
樋口よう子さん

樋口さんはそれまでにも、美術館を出て町を舞台に行なわれるアート・プロジェクトのいくつかに参加した経験があったが、地元とつながりを持たず、ただ自分の作品を置いてくるだけの作家や作品に疑問を抱いていた。「モダンde 平野」へ参加する作家は、樋口さんが決めた。条件はお金がないことをわかってくれる人。ポイントは平野という町とどうかかわりあってみせてくれるか、ということだった。この試みに協力したのは、町の人たち。平野には「平野の町づくりを考える会」という地元有志の集まりがある。会のメンバーのひとり、全興寺の住職・川口良仁さんは言う。「作家は石を投げるだけで終わり、地元は発表の場を貸すだけ、そういうかかわりなら協力はしない。樋口さんは平野に住んで、自分の問題として町とかかわっている」。

「モダンde 平野」の中心となる7月の第4日曜日は、もともとちょっとスペシャルな日である。「平野の町づくりを考える会」では十数年前から「町ぐるみ博物館」という町づくりのプロジェクトを実施している。これは町の人が自分の家や店先を博物館として開放するというもので、「平野映像資料館」「平野薬博物館」「自転車屋さん博物館」など9つの博物館がある。これらの博物館が全館オープンするのが、この日なのである。よって「モダンde 平野」の観客は、地元の人たち、観光客、それにアートファンという3層構造となる。

樋口さんと住職
樋口さんと「金興寺」住職の川口良仁さん

1年目の「モダンde平野」は、樋口さんを中心とした「モダンde平野実行委員会」が主催。2年目は、同実行委員会と「平野の町づくりを考える会」の共催となった。3年目の問題は、この2つの会の対立である。とはいえ、共催する2つの組織のメンバーは重なっているので、対立の構図がはっきりとあるわけではない。しかし実行委員会側と町づくり側の「モダンde 平野」のとらえ方は全く違うことは確かだ。「1年目は受け身だった」と町づくり側の川口さんは言う。「2年目は自分たちもやってみよう」と住民も参加することになった。チラシには、実行委員会側の樋口さんが決めた外部からの参加アーティストと住民の参加者の名前が、同じように並んだ。樋口さんは「モダンde 平野」をアート・プロジェクトとしてとらえている。しかし、川口さんは町づくりプロジェクトとしてとらえている。樋口さんは作品をつくるように、プロジェクトにも、ある完成度を持たせたいと考えるが、町づくりとしては、商店街の人も障害のある人も、みんなが参加できて面白いものがいい、と主張する。アート・プロジェクトとして見た場合、2年目は1年目に比べると、主旨があいまいになったように思われた。川口さんも、2年目はアーティストと住民が一緒に参加したが、結局、お互いうまく混じりあうことができなかったと話す。「協調してやれるものではない、ということがわかりました。ですから、アーティストたちとは緊張感を持ちながら、けんかしながらやっていこうと思っています」と。一方、樋口さんには売られたけんかを買う様子はない。かといってアート・プロジェクトとしての姿勢をくずすつもりもない。「町をアートの新しい環境としてとらえています。あくまでもエキシビションとして、やっていきたい」。

自治都市であった町の住人は面白がりで、はっきりモノを言う。「アートなんて認めてない」と。そんな環境の中の「モダンde 平野」。町づくりとアートの3年目はどうなるか。今年の「モダンde 平野」でアーティストたちが行なうのは「さがしモノは何ですか?」。町の中に隠れるように、場所とコラボレートした作品を展示する。「モダンde平野」をアートとして楽しむには、町づくり側とアート・プロジェクト側がお互いの立場を認識しはじめた今年、3年目からが実はいい感じなのではないか、とひそかに期待している。

樋口さんと住職1
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