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曽根裕インタヴュー
−ミュンスター彫刻プロジェクト1997
村田 真
曽根裕といえば、展覧会ごとになにをしでかすか予測のつかない作家である。この彫刻プロジェクトにはビデオ作品『バースデー・パーティー』を出品。キュレーターのカスパー・ケーニヒは94年から曽根に関心を寄せていたが、評価を決定的にしたのは、一昨年ヴェネツィア・ビエンナーレの「アペルト95」としてスウェーデンで開かれた「ヌトピ」展だったらしい。ちなみに同展の出品作家6人のうち、曽根を含めて4人がミュンスターに招かれたことからも、いかに「ヌトピ」が重要な展覧会だったかがわかる。曽根は昨年9月にミュンスターを訪れてプランを決め、今年5月から1カ月半ほど滞在。連日、市内の知人宅や野外、路上など約100カ所で自分自身のバースデー・パーティーを開き、それをビデオ作品化して駅前の地下通路に展示している。
―『バースデー・パーティー』に決めたのは、昨年9月のプロポーザルの時?
曽根:直観的に、ミュンスターに着いてから30分くらいで決めてしまった。そしたら「まあ待て」っていうんです。「我々が期待しているのはサイト・スペシフィックなアートなんだ。君はアイディアが固まるまで好きなだけいていいから、ホテル代も全部うちがもつから、その代わりじっくり街を見てから決めてくれ」と。「いや、もう決まったから今プロポーザルしていいか」といったら、「まあ待て、とにかく街を見てから決めなさい」と。「じゃ、タイトルだけ予告しておこう。『バースデー・パーティー』だ」(笑)。そのあと30分くらい街を見るフリをして、設置する場所を探した。ミュンスターは第2次大戦でボコボコに破壊されて、それを戦後、昔のファサードのままつくり直した、ハウステンボスみたいな街なんです。『バースデー・パーティー』はそういう街にふさわしい作品じゃないかと思ったんです。
―向こうはミュンスターという場所に合った作品を期待していたわけですね。
曽根:というよりも、彼らがほしかったのは「ミュンスター・スペシャル」(笑)。場所に合うってことは場所に合わないって意味で合うとか、それを置くことによって場所の性格が変わるとか、場所の可能性を広げるっていうこともあるしね。
―『バースデー・パーティー』は東京でもやったことありますね。
曽根:あります。東京ではああいうかたちではなく、一晩、一カ所だけで。あの時は実験版としてやって、9月にスパイラルの「ジョイン・ミー!」で発表しようと思ってたけど、参加するのをやめてしまったんで、宙吊りになったままどっかでやりたいなと思ってた。最初に考えていたのは、あらゆるアートがバースデー・ケーキになってしまったというビデオ作品。そんなのなるわけない(笑)。でも4000年たったらそうなるかもしれない。ぼくはミュンスターにはぴったりの作品だったと思っています。
―でも、安斎重男さん(写真家)が行った時は、だれかがコードを引き抜いて見られなかったんだって。だからビデオを出すより、期間中ずっとバースデー・パーティーを開いたほうがよかったんじゃない?
曽根:ぼくはそうは思わない。あのビデオが作品なんです。あのビデオは記録じゃないんですよ。夜のシーンを昼に撮ったり、場所と時間と感情が微妙に動いていくように編集してある。バースデー・パーティーをたくさんやる行為がスゴイってことじゃなくて、だれにでも1年に1回はあるはずの誕生日が連続していくなかで、もし本当に誕生日にやったら本当のバースデー・パーティーだし、誕生日じゃない日にやったら、それはパフォーマンスか、嘘、ビデオの中ではだれもそれを決められない状態で膨大な時間が流れていく。そんな世界は現実にはない。でもあれは「彫刻」だから、そういう事件が起きちゃったりする。結局、どこにもない時間をつくりたかったんです。だれでも知ってる日常的な素材を使ってね。
―駅前の地下通路を選んだ理由は?
曽根:あそこは不特定多数の人がただ通過するだけ。そういう性格の場所に、すごくプライベートなぼくのバースデー・パーティーの映像を置く。あれは「旅行」ビデオでもあるんですよ。限りなくバースデー・パーティーのかたちをしているけど、どんどん風景が変わっていくビデオで。でも全部ミュンスターの風景なんです。
―見た人の反応は?
曽根:ミュンスターの人たちも、「バースデー・パーティーを連続してやる? うん、それはすばらしい。でもそれはアートなんですか?」って聞くんだ。おもしろいよね。アートっていうのは、見たことのないような美しい風景のことをいうと思うんですよ。見たことのない美しい風景というのは、見たことないからそれが美しいかどうかわかんないんだけど、でもそれがアートの条件。たとえば、展覧会に行く前に、こいうものが見られるから行こうといって、ああ見たって帰ってくるのは、展覧会としてもアートとしてもイマイチだし、そういうコミュニケーションはぼくはアートだと思ってないんです。とにかく自分のアンテナを連続させて、展覧会場のアートの周波帯に合わせる。その時ぴたっと合うと、なにか感じる。それがアートな出来事なんだと。
―アートはもっと日常生活の近くにあるってこと?
曽根:みんな生活してるでしょ、ジャンキーもホームレスも。それは美術館の白い壁に作品があるよりおもしろいし、可能性がある。彼らから遠いところにすごいフィクションをつくることって、わりとステレオ化されちゃってるでしょ。「こんな珍しいことしました」とか「だれもしないことしました」っていうアートは、少なくともぼくの考えているアートではない。そうじゃなくて、近くなんだけど遠くて、近いゆえに遠くに行っちゃう瞬間みたいなものをぼくはすごく大切にしてるし、すごくスリリングだと思う。それをぼくはアートと呼んでいるし、それをやっているんです。
―そういう意味で、今回のミュンスターの出品作家の中で印象に残ったのは?
曽根:たとえば、フィッシュリ&ヴァイス。彼らは一番サイト・スペシフィックなものをつくろうとした。スーパー・サイト・スペシフィック(笑)。土地にくっついているんだもん。彼らは今までだれも見たことのないような農園をつくっているわけです。その一つひとつの素材は見たことあるけど、家庭菜園にしては大きすぎるし、プロの菜園にしては小さすぎるし、並んでる植物もありえない配列なんです。だから彼らの作品は、だれもが庭だと思うし庭以外のなにものでもないんだけど、だれも見たことのない庭を見事に実現している。ありえない庭、庭の天国みたいな(笑)。それは限りなく日常に近いけど、もっとも日常から遠い場所として、ぼくは感じた。あの作品には頭をガツンとやられました。
曽根裕『バースデー・パーティー』
曽根裕『バースデー・パーティー』より
曽根裕『バースデー・パーティー』
曽根裕『バースデー・パーティー』より
曽根裕『バースデー・パーティー』
曽根裕『バースデー・パーティー』より
曽根裕『バースデー・パーティー』
曽根裕『バースデー・パーティー』より
ミュンスター彫刻プロジェクト1997
会期 :1997年6月22日〜9月28日 10:00〜深夜
開催地:ドイツ、ミュンスター
メイン会場:市内各所およびヴェストファーレン州立美術博物館
問い合わせ:eメール muenster@artthing.de
Tel: (0251)5907-201
ホームページ :http://westfried01.uni-muenster.de/skulptur/index.html

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