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マンガの国 日本−2
情報マンガと石丿森章太郎1
MANGA
go tchiei
呉 智英
この原稿は、マンガをめぐる日本の状況を海外に紹介する目的でnmp internationalのために書きおろされたものである。

『マンガ・日本経済入門』の登場

今年1998年1月18日、石丿森章太郎が死去した。彼は『マンガ・日本経済入門』の作者として名高く、この本の英訳本も出版されたため、外国でも広く知られている。しかし、このことは、皮肉にも、日本マンガについて誤解を生むことにもなっている。今回は、この作品と石丿森章太郎をテーマにする。
 数年前、わたしのもとにヨーロッパのある先進国の某紙記者が取材に訪れた。隆盛な日本マンガについて話を聞きたいというのである。記者は開口一番こう言った。「日本マンガは、経済マンガ、エロマンガ、暴力マンガ、と大きく三つに区分できますが……」。私は驚くとともに、ヨーロッパ人は日本マンガについてこのように誤解しているのだとわかり、悲しく思った。群盲象を撫でるの諺通り、巨大な日本マンガの全体像は彼らにはわからないのだ。
 もちろん、日本マンガにそんな“三大区分”などありはしない。描かれたものによる区分だけでも、スポーツ、SF、恋愛、文芸、歴史、ギャグなど、もっとたくさんのジャンルがある。エロマンガは確かに一つのジャンルとして成立しているが、暴力マンガとか経済マンガというジャンルはない。暴力については文化の差にすぎないし(日本は欧米に較べて暴力犯罪の発生率が低い)、経済マンガなるものは情報マンガ(解説マンガ、入門マンガとも言う)のうちの一つにすぎない。しかも、情報マンガはマンガのうちで必ずしも高く評価されていない。
 情報マンガはマンガの図解機能を応用したもので、子供向きの学習マンガとして既に戦前から存在していた。1970年代、マンガが表現形式として飛躍的に発達するとともに、サラリーマンを主要読者とする一般雑誌に、蘊蓄マンガと俗称されるマンガが登場した。とりたてて物語があるわけではないが、主人公が食物や酒や年中行事などについてその由来や逸話などの蘊蓄をかたむけるのである。  その延長線上に1986年秋の『マンガ・日本経済入門』が出現した。この作品は、日本マンガでは例外的に、雑誌連載ではなく、描き下ろし単行本の形をとった。しかし、全三巻併せて百万部売れ、それまでマンガに関心を持たなかった戦前生まれのの非マンガ世代の人たちにも、マンガという表現形式の威力を認めさせることとなった。
 これ以後、歴史、科学、古典文学などを扱ったマンガが追随し、行政機関の広報にもマンガが多用されるようになった。そのためこれらのマンガを情報マンガとか解説マンガとか入門マンガとか、皮肉を込めて大人用勉強マンガと総称するようになった。
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