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「空即是色」プロジェクト
−もしも東京がお花畑になったら
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テキスト:三澤純子
ヴィジュアル:大西瞳
撮影:若林直樹

■プロジェクト概要

「見えないものを可視化する。」現在、私達はこのテーマに基づきいくつかの行動を起こしています。時には想像力の物質化であり、時には社会概念のビジュアル化であり 、時には時空の物語化です。
 このプロジェクト「空即是色」では、植物の成長という偉大なるプロセスに、自ら関与することを通して、私達の目の前の虚ろなことがらを可視化しようというものです。 根本には非常に通俗的な願望があります。「東京の空地が花畑だったならきれいだろうなぁ。」
 私達はこの願望を可視化する過程で、土に戻り、大地に戻り、ともすれば忘れがちな太 陽がくれた時間と共に歩いてみたい。また、植物の種と対話し、芽と対話し、葉や花 と対話することで、物質に含まれるプログラムやネットワークの偉大さを今一度、整 理してみたい。さらに、これほど単純な願望がこれまで満たされなかった原因である東京の社会環境と東京人の思考と行動に、知らぬ間に埋没した自分から脱却したい。 このプロジェクトは種を蒔くという自分の行動と、太陽や大地の恵みを吸収した種と の共同作業です。何もない東京の空地に目に見える花畑をつくれたら、それでひとつの目的は達せられます。しかし、すでに様々な機関の方々から東京における空地の問題、植物の問題、法的規制の問題など多くのご意見をいただき、「見えないもの」の多さをかみしめています。純粋に植物の成長に目を向けるだけでなく、それらの見えないものに対しても自らの視線を向け、可視化していこうと考えています。

空即是色
空即是色プロジェクト−この絵は種で描きました
■空即是色

「空即是色(くうそくぜしき)」とは般若心経の一節です。インドで生まれ2400年も の長きに渡り、人々に唱えられてきた呪文の一節。

色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識 亦復如是

現代用語に訳せば、「物質は非物質に他ならない。不可視は可視に他ならない。物質すなわち非物質であり、不可視すなわち可視である。感受性、想像性、行動、知識もまたこのとおりである。」というようなことでしょう。仏教用語の解釈は多々ありますが、私達はここに現代の技芸の根本を見い出すのです。特にマルチメディアやネットワークといったコンピュータや通信などにかかわる技と芸は、まさにこの言葉を現代の表現である技術やテクニックを用いて伝えているように思われます。よってここでこの言葉をタイトルとして取り上げたのには、このプロジェクトを通して、創造の根本原理にせまろうという深い理由があるのです。しかしまずは、「空地(空)に、花(色)を咲かせましょう」という単純な意味合いがあります。「空」であること、そこには多くの理由があります。空地が空地である理由、種が種である理由、空とは現象の根本にある因縁をさしていると思われます。空を念頭に色を創る過程において、環境における空そして色、植物における空そして色をつかみたいと考えています。

空地3花咲く4
東京の空地を見つめ、色とりどりの花を咲かせることができるでしょうか?
■空地

東京湾岸に生まれ育ち、変わりゆく風景になす術もなく、私は今、ここにいる。東京湾岸の工業地帯は次々と埋め立てられ、私の目前にはいくつもの空地が拡がった。私にとって空地とは、有刺鉄線に囲まれて立入禁止の札の立つ無味乾燥な空間である。私と海を隔てているそれらの空間がせめてレンゲ畑やひまわり畑だったなら、私はもう少し優しい人間になれたかもしれない。
 東京にはけっこう多くの空地がある。しかし、多くの人はその存在に目を向ける暇がないらしい。新しいお店がオープンしたとき、果たしてここがその前に何であったのか、その過程を覚えている人は少ない。大きな空地の角を曲がって来てくださいね、といわれてもそこに空地があったのかどうか記憶はさだかではない。「空地」として放置されている東京の空地には、多くの物語が降り積もっている。地あげ、夜逃げ、倒産、その物語の多くからは「悲哀」「無常」「恐怖」「陰惨」などの言葉が連想される。人々は目をそむける。
 新都心の開発は止まった。そこには広大な空地が残された。何もない。しかしかつてそこには幾多の人々の夢や努力や欲や野望が渦巻いた。そして彼等の「色」は訪れなかった。
 東京湾のどまん中に究極の空地がある。かつて国の守りとして創られた人工の要塞である。本来の目的を果たすことなくそこが空地であることは、平和の象徴でもあろう。今その要塞は放置されたまま、魚礁となった。さまざまな物語が降り積もる空地。そこに芽を出すものは、何であろうか?

戻る7大地によせて8
東京の人も、土に戻り、大地を考えることが必要なんではないでしょうか?
■花咲く

加速度が高まる。超高速の乗り物に飛び乗り、コンピュータネットワークを駆使し、時間を超えて、私は移動し、さまざまなものとコミュニケートし、ものを創り、そして、疲れ果てた。時間とは? 私は昨年1年間、テレビもラジオも電話も断ち、電車も車もできるだけ断った。ただ自分の足で歩き、自分の目に映る実像だけを信じ、自分の鼻や背中に感覚器があることを再認識し、手を延ばせば触れられるものだけを愛した。そこに花があった。昨年の晩冬、太陽の光りの下、昼寝をした。うとうとした意識の中で私は太陽のエネルギーの偉大さを感じた。これだけのエネルギーを浴びて、木々は一歩も動かずそこにいる。花も咲かずにはいられまい。春の日差しを浴びながら、木々はずずっ、ずずっと芽を噴き出す。固いつぼみがほころんでいく。夏の日差しを浴びながら、木々はエネルギーを充電する。花は限界まで開く。そして実を結び、実を落し、また静かな眠りに落ちる。新たな生が始まる。時間とは? 太陽がくれた、地球本来の時間を私は再び生きてみたいと思った。

降り積もる9時を生きる10
空地に降り積もったたくさんの種と物語。芽を出し成長する時を共に生きよう
■飛ぶ

種は風にのり、鳥に運ばれ、人々の靴の裏にへばりつき、遠く離れた場所へ新たな生を運ぶ。その種に父や母の偉大なる姿は見当たらない。この小さな粒の中に、プログラムだけを隠し、種は飛ぶ。ネットワークもまた、プログラムを運ぶ風になり、鳥になり、人々の靴となり、新たな生を育むのであろう。今、ここにある種の兄弟たちは、地中で赤や黄色に色づき、緑の芽を葺かせている。もうしばらくすると地上に出てくる。ここの種さんたちには、あやまらねば。新たな命を断ってしまったのは私だ。だからこそ、私は他の兄弟たちの芽を見守ると同時に、私がつみとってしまった生命を別のプログラムとして再生する義務があるような気がするのだ。私達は種を運ぶ風になれるだろうか?

愛11育12
花が愛を育てる。種が愛を運ぶ
■お種基金

種をくださいな、私達に。空地がコスモス畑になったら、素敵だと思うんです。駐車場がレンゲ畑になったら、うれしくなると思うんです。湾岸がひまわり畑になったら、幸せになれると思うんです。

飛ぶ5種6
種が飛ぶ。みなさんから種を集めています

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