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マンガの国 日本−6
特異なマンガジャンル 少女マンガ1
MANGA
go tchiei
呉 智英
この原稿は、マンガをめぐる日本の状況を海外に紹介する目的でnmp internationalのために書きおろされたものである。

日本マンガ固有の少女マンガ

マンガ文化が未発達な外国から日本に来た外国人は、大学生や知識人をも読者とする日本マンガの大海のような広がりにまず驚嘆する。驚嘆の後でマンガの面白さに目覚めた外国人が次に訝しく思うのは、少女マンガの存在である。女性読者のために女性作家が、恋愛を中心とした物語を独特のマンガ文体・マンガ文法で描くマンガが存在するということが、外国人には理解しがたいのである。
少女マンガは概括して言えば、次のような特徴を備えている。
第一に、読者・作者ともに9割以上が女性である。1970年代の半ばから、後述するニューウェーブ作品を中心に男性読者も現れるようになったが、特別な愛好家以外に読者は広がっていない。読者・作者の大多数が女性であるマンガが独自に成立しているのは、一つにはマンガ市場がそれだけ大きいからであり、もう一つには日本では少女の文化と少年の文化が峻別されてきたからである。
第二に、少女マンガの主要なテーマは、石鹸歌劇のような母娘劇、芸能界デビュー物語、そして恋愛物語である。物語の構成もほとんどが石鹸歌劇かハーレクィン小説のように通俗的で定型的である。
第三に、登場人物の名前、容貌、状況設定が、架空もしくは擬似西洋的である。明治以来の欧米へのあこがれもそこに感じられるし、非日常的な物語空間を作るのに便利だからでもある。登場人物の容貌は極端に誇張された例が多く、目は顔の三分の一を占めるほど大きく、瞳には星のような光芒ががきらめいているし、髪も金髪でカールしており、手足も細く長い。これも日本人が理想化した西洋人女性であり、そのため、実際の西洋人ほど鼻は高くなく、胸や腰つきも豊かではない。
第四に、少女マンガは特有のコマの文体・文法を持っている。男性向けのマンガでは、物語の進行はコマからコマへと直線的に進むのに対し、少女マンガでは、物語の進行が不規則であり、変形のコマが多用される。輪郭のないコマ、極端に縦長や横長のコマ、いくつかのコマにオーバーラップする主人公の大きな肖像、人物の背景に装飾として描かれる花模様……などである。
複数のコマにまたがる人物像、人物の背景の装飾、といった文体・文法は、戦前からある女性雑誌や服飾雑誌の抒情画やスタイル画の伝統に連なるものだが、それが物語を持つマンガに生かされていることが興味深い。J・マネー、P・タッカー『性の署名』は世界的に名高い性科学者だが、ポルノグラフィについて、男性向けのものは異性が直接表現され、女性向けのものは同性を経由して表現される、と指摘している。恋愛についても類似のことが言えるはずで、少女マンガでは、恋愛物語が同性である主人公の強調・美化という文体・文法によって構成されているのである。
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