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日本人とすまい第3回企画展「しきり」
――生活における「しきり」と和の美しさ
山家京子

11月7日より25日まで新宿のリビングデザインセンターOZONEにて「日本人とすまい」第3回企画展「し/き/り」が開催された。平日の午後にもかかわらずかなりの盛況で、便利とは言えない場所柄を考えれば、第1回「靴脱ぎ」、第2回「畳」と充実した内容の積み重ねによる成果といえるだろう。会場は、襖、障子の実物の展示、伝統的なしきりの再現、スクリーンに映写されたしきりの変遷、8組のデザイナーや建築家のインタビューと実例によりデスクトップ上に構成された現代におけるしきりの可能性の4部から構成されている。
私たちにとってなじみ深い襖や障子だが、過去の極端な近代化の中で、封建性を象徴する要素として、床の間や立派な玄関と並び肩身の狭い時期もあったことをご存知だろうか。その後、床の間と立派な玄関は、機能主義へと向かう中で、象徴的機能を担うだけのエレメントとみなされ、なかなか日の目を見ることができなかった。しかし一方、日本の伝統的空間がモダニズムのめざした柱・梁の空間そのものであり、ユニバーサルなスペースのお手本として国際的評価を得たことで、襖や障子は再び堂々と姿を現すこととなった。さらに、もう少し装置的なニュアンスのある「しきり」は、機能主義を教典とした小住宅が基本的にワンルーム構成だったこともあり、様々な展開を見ることとなったのである。
現代空間において、「しきり」は機能的にあるいは合理的に選択される。集合住宅のように不特定の人を対象とする場合。また、特定の人であっても家族のあり方や構成が年を追って変わっていくことが想定される場合。住まう人の特定・不特定だけでなく、時系列的な変化まで考えれば、固定化の方がむしろ不自然であり、固定しない方が理にかなっているといえる。厳格なシステムを敷きそれにディテールまで合わせて行動するというのではなく、決定を先送りにする(そう悪い意味ばかりではない)、その場その場で決めていくといったやりかたが、日本人の空間意識、ひいては社会意識にあっているのだろう。
このような「しきり」のあり方は、生活を反映したプランニングに結びついていて、それはそれで非常に興味深い。たとえば、スティーブン・ホールのヒンジド・スペースやワークステーションの田の字型など。また、中村好文は空気が動くことを意識して引違い戸を選択する。それは、「しきり」というエレメントを超えて、ある意味で日本の伝統空間の特質を現代建築に移行する試みだといってよい。ただ今回、私はむしろ和の意匠をもったエレメントとしての「しきり」の視覚的な美しさに惹かれた。
 この展覧会で一番印象に残ったのは、「3.ビジュアルでみるしきりの変遷」で映写された、近代の和風建築に見られる「しきり」の写真。観客たちから思わず「キレイ」と声があがったのは、閑谷学校講堂の明かり障子だった。その写真だけが特別なのではなく、思い起こしてみれば和の意匠のなんとフォトジェニックなことか。それは平面的に構成され、光と影のコントラストからなる美しさである。ただ、この種の感動は着物の柄を見て抱く気持ちに近く、見るだけの美しさであり、生活とは別の次元のものかもしれないのだが。それは、私たちにとって日常的であるはずの襖や障子も、多様な文様の唐紙や引手などの素材に着目すると、なんだかレトロな感じがして、「伝統」「和」「匠」といった言葉で語るのがふさわしいような気がしてくるのと同じ根っこをもつものである。私たちは現代の生活の中で装置としての「しきり」の可能性をみたり、伝統的な空間の特質を翻案することはできても、和の意匠についてはすでにある程度の距離の取り方をしているのかもしれない。
しきり

しきり
パークタワーホール会場入口

写真:リビングデザインセンターOZONE
しきり
展示会場
日本人と住まい第3回企画展「しきり」
会場:パークタワーホール(新宿パークタワー3階)
会期:1997年11月7日〜25日
問い合わせ:Tel. 03-5322-6500 リビングデザインセンターOZONE

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