キュレーターズノート
3.11以降の熊本アート──坂口恭平「ゼロセンター」/トーチカ「ReBuild」
坂本顕子(熊本市現代美術館)
2011年07月15日号
学芸員レポート
3月11日以降、アーティストたちはさまざまな立場から、作品を制作している。震災直後の現場を撮る。被災地で支援をする。被災者の西日本への避難を進める。または、こういうときこそ社会との距離を保ち、作品の純粋性を高めていく。その立ち位置はさまざまだ。
今回、当館のギャラリーIIIで個展を行なうトーチカは、震災直後、いち早く映像ディレクターの関根光才らと「Safe and Sound Project」を立ち上げ、世界中からPIKAPIKAによるメッセージを集め、菅野よう子の「きみでいて ぶじでいて」にのせて発表した。
トーチカのナガタタケシは熊本出身、また、九州新幹線が全線開業して初めての夏休み中の企画ということもあって、当初はストレートに熊本の魅力をPIKAPIKAで表わす作品制作を目標としていた。しかし、震災後、トーチカとのミーティングのなかで、この災害に際してアーティストとして生きるうえで、どういった記録を超える表現をしていくのかという点が議論となった。端的に言えば、物資、住居、貯金、仕事がないという状況のなかで、アーティストが表現をしていくことは可能なのかということだ。
トーチカが、まず行なったのはボランティア活動だった。その合間に東北の被災地を訪ね、街の様子を記録し、地域の人々の生活のなかに身を置いてみる。そこから得た経験が、自分たちの判断や方向性を少しずつ確かなものにしていく。
新作にもなっている、本展覧会のタイトルは「ReBuild」。宮城県東松島市の、震災によって大量に出た瓦礫が大型トラックで次々と運ばれてくる、廃棄所のゴミの前で撮影は行なわれ、筆者もその場面に立ち会った。震災前、廃棄所は海岸そばの眺めのいい公園で、ゴミは誰かの家の一部であったことは、もちろん言うまでもない。そこで太陽光の強い時間を狙って、手鏡を反射させ、ReBuildという文字を20カウントのあいだに空中に何十回と息を詰めて描き続ける。
西日が撮影用の黒服や長靴、マスクに覆われた体を容赦なく照らしていく。だが、その時間は、自分にとって初めて身体を通してリアルに感じられた、アートという名の祈りそのものであった。